社内には、2年ほど前から「ハラスメント対策室」なるものが設けられ、セクハラやパワハラの駆け込み寺になっている。

そういうハラスメントのせいで、管理職が懲戒処分を受けることが珍しくなくなってきた。

「でも課長、川中さんが残業できないとなると、わたしと、あとは……」

デスクのほうに目を向ける。

そちらから興味津々といった感じでわたしたちのほうを見ていた足立さんと斉藤さんが、サッと顔をそむけ、パソコン画面にかぶりついた。

なんて露骨な反応なんでしょ。

「ふーん、友高くん、君、あんまり人望ないみないだねイテテテ」

「あーらごめんなさい課長。うっかり踏みつけてしまいましたわ」

わたしはセリフを棒読みしながら、課長の足の上から、ゆっくりと自分の足をどかした。

「どのみち、斉藤さんは親御さんの介護で残業できませんし、足立さんは昨日で残業が40時間になっています」

会社と労働組合との間で36協定というものが結ばれ、そのなかで、残業時間は原則としてひと月40時間まで、と決められている。

例外的に、部長決済で月60時間、役員決済で月80時間まで残業が認められる場合があるが、わたしたちの部署には縁のない例外だ。