その少女、人間不信な文学少女につき

そう遠くない未来。

どこかの時点で歴史の歯車が狂い、違う歴史を刻む、パラレルワールドと化した日本。

政府は、純文学の新人賞を廃止し、純文学の衰退を進めていった。

それに伴い、全国の図書館も純文学の蔵書数を徐々に減らしていった。

しかし、そんな事をせずとも、百年以上前の事だ、と人々の記憶から純文学の代表である文豪たちが消え始めており、純文学の需要はかなり落ちていた。

そんな日本の中の、どこかの話。
小林悠喜(こばやしはるき)はその日、図書館にいた。

その図書館は地域でも蔵書数や本の種類が多いことで有名で、悠喜もそこに惹かれて学校の部活帰りにふらっと寄っていた。

「今日は…………、どの本がいいかな。
………………ん?」

悠喜はドサドサドサッ、と何かが落ちる音が聞こえた気がしたらしい。

「俺の気のせい?」

しかし、結構近くで聞こえたようだったから、音のした方へ足を運んだ。



音がしたのは五つほど後ろの棚だった。

悠喜と同じくらいの歳の制服の少女が、少女が落としたであろう本を一冊一冊拾い集めていた。

「て、手伝おうか?」

少女は肩をビクつかせて驚き、急いで悠喜の方を向いた。

「……結構よ」

少女はさっさと本を拾い集め、足早に行ってしまった。

「何だったんだ……? って、あれ。一冊忘れていってる。何これ……えっと、『父帰る』?」

悠喜は本を拾い上げ、この本が入っていたと思われる棚に本を戻した。
翌日、Ⅱ-Bの教室。

悠喜は、生徒手帳を片手にある机の前にいた。

席の主は宮本瀧音(みやもとたきね)。昨日図書館で出会った少女だ。彼女が一冊だけ忘れていった本の下に落ちていた生徒手帳を悠喜が拾ったのだ。

しかし、瀧音の席は空席だった。

「図書館……、行ってみるか」

一日、瀧音が現れることは無かった。
図書館。昨日と同じ場所に瀧音はいた。

「あら、『父帰る』があるわ。借りたと思っていたけれど、忘れていたのね」

「あの……」

悠喜は恐る恐る瀧音に声をかけた。

「っ、誰……!?」

瀧音は悠喜の方を向くと、一瞬嫌そうな顔をして、走り去ろうとした。

「待って、生徒手帳! 忘れ物!」

と声をかけると、瀧音は急いで振り返り、悠喜の手から半ば強引に生徒手帳を奪い取ると、凄いスピードで生徒手帳のページを繰っていった。一通り生徒手帳を確認すると、今度こそ帰る、と言わんばかりに体の向きを変えた。

「どうして、君は俺を避けるんだ?」

悠喜は咄嗟に瀧音の腕を掴み、問いかけた。

瀧音ははあ……、と溜息をつき、またも嫌そうな顔をして言った。

「信じられないのよ。人が。
………………これで分かったでしょ? 分かったならこれ以上私に関わらないで」

腕を振りほどき、数冊の本を抱えて行ってしまった。

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