誰だろう。
 少し、上ずった声が聞こえた。
 緊張し、ためらいがちに話しかける姿が、顔を見ることが出来なくてもわかった。
 重たいまぶたをゆっくりと上げると、攻撃すらも己の存在を示す材料にしてしまう強い小さな海があった。
 その後に、黒光りする長い糸の束が見え隠れする。
 俺はその強い海が入ったプラスチックを奪い取り、かぶりついた。
 俺の首が、壊れてしまいそうな音を鳴らしながらリズムを刻む。
 
 「もう、大丈夫そうですね。」
 
 この声を聞いて、さっきの歌の声の主は彼女だと気づく。
 お礼を言わなければと思い、リズムを止めようとするが、考えとは裏腹に止めることはできなかった。
 軽やかなリズムで彼女がいなくなっていく。
 無理やり、海のリズムを止めると、強く咳き込んだ。
 だけどそんなことをしている場合じゃない。
 何とか立ち上がり、首をいきよいよく振る。
 お礼を言わなければ、海の代金を払わなければ・・・と。
 見つけた彼女はまた、歌を歌っていた。
 俺は人目をはばからずに、叫んだ。
 
 “俺と結婚してください!”