まだ咲かない花たちが並び、人もまばらな所まできてしまった。 
 どのくらい走ったのだろうか。
 顔の熱が引くのを感じた。
 ボクは道のど真ん中にしゃがみ込んだ。
 気持ちを伝えれない自分に、強い嫌悪感を持つ。 
 ボクは最低の人間だ。
 あなたは、ボクに呆れているに違いない。
 僕の方から話しかけてきたのに、勝手に、どこかへ走って行ってしまうのだから当然だ。
 きっと、悪質なピンポンダッシュに遭った気分だろう。
 もう、ボクと会ってくれないかもしれない。
 別れ話を切り出されるかもしれない。
 そんなことを、くよくよと考えていると、 涙が出てきた。
 どんどん溢れてきて止まらない。
 終いには声を上げて泣いた。
 
 「やっと見つけた。もう、泣かないの。」
 
 ボクは声の主を見た。
 
 “ボクのこと、嫌いにならない?” 
 
 「何言ってんの。
 嫌いになるわけないじゃん。
 大好きだよ。
 もう、迷子にならないよう、手繋ご。」
 
 そう言ってあなたはボクの手を取った。
 ボクらは互いの顔を見て笑った。
 
 この日が、あなたと初めて手を繋いだ五歳の春だった。