「本当に野中のこと、好きなんですか? からかってるわけじゃなく?」
「違うよ。 心外だな」
佐伯さんはわざと憮然とした顔をして見せて、それからビールを一口のんだ。千葉も勢いをつけるように、ビールを半分くらい飲み干す。

「俺、野中のこと好きです」
「知ってる」
「だから今、野中があなたと一緒に暮らしているのに、我慢なりません」

私は目を大きく見開いて、二人の会話をただ聞くしかない。本当に私を取り合ってる、らしい……。信じられない。

「野中のアパートが壊れて、住むところがないらしいんだ。だから一室提供した」
佐伯さんが言う。

千葉は大きく息を吸って「困ってる人には誰にも、そうやって一部屋提供するんですか!?」と背筋を伸ばして挑んだ。

「するわけないじゃん」
佐伯さんは悪びれた様子もなく言う。「野中が好きだから、家に来てくれないかなあって」

千葉は明らかにムカッとした顔をした。
「手だしてませんよね?!」

私は思わず自分の首元を触る。佐伯さんがちらっとこっちを見て、それから「ちょっとだけ」とニヤッとした。千葉が「ちょっと!? 何したんすか!」と眉を釣り上げる。

私はこらえきれなくなって「ねえ……」と割って入ろうとしたが、ヒートアップしているのか二人には届かない。

「謝ったよ」
「謝ってすむことじゃないです! 一緒に暮らすのは危険すぎる」
「でもさあ、野中は止めなかった。野中なら俺を突き飛ばして、なんなら投げることだってできるのに、しなかったよ」

私の顔がカッと熱くなった。言われてみればそうだ、私なら佐伯さんを抑え込むことも可能だったのに、私はしなかった。だって、あまりに突然のことでびっくりして……それに、嫌じゃなかった。