自分の人生の中で、二人から同時に告白されるなんていう、ヒロインみたいなシチュエーションは経験したことがない。いや、だいたい一人からもなかったんだから、当然なんだけど。こんなことがまさか現実世界に起きるなんて……。

千葉といると楽しい。安心するし、素の自分でいられる。反対に、佐伯さんと一緒にいると、ドキドキして緊張しっぱなしだ。

「返事しなくちゃ」

会社からの帰り道、ぼそっとひと言呟いた。でもどうやって返事をするの? 私がどちらかを好きって思えばそう返事をできるんだけど。

「わかんない」

私はため息をついた。漫画はたくさん読んできた。好きな人もいた気がする。でも恋愛というものはこれまでしてこなかった。環境が変わって、目標がなくなって、なんとなく普通の会社員に憧れて入社しただけで、実のところ本当は、自分が恋愛をするなんて、ひとっつも信じてなかったんだと思う。

よく漫画で、好きな人と一緒にいるとドキドキするってかいてあるけど、私は佐伯さんの告白の時も、千葉の告白の時もドキドキした。 どっちがどうとか、なかった。両方戸惑ったし、両方嬉しかった。

だから、どうやって二人に気持ちを返したらいいか、わからないのだ。

「ヒロインになるって、案外大変だ」
私は夜空を見上げて、日中の熱気が残る空気を吸い込んだ。

「しばらくぶりに走ろうかな」
そう思った瞬間、私のスマホが鳴った。道の端によってからスマホをみてみると、千葉からの電話だ。

どっと汗をかいて、スマホを持つ手が濡れてくる。なんて電話にでたらいい?

「……もしもし?」
『俺だけど……』

電話越しでも、千葉の緊張が伝わって来る。