私はばっと手のひらで首を隠して、とっさに佐伯さんを睨む。佐伯さんはまったく自分は関与していませんというように、すました顔をしていた。

「誰にキスされたの?」
前に座っていた西島さんが、興味津々というように身を乗り出してきた。私は首を隠したまま、目を彷徨わせる。

隣の人にされたんです、そう言えたら気が楽なのに。

「わかった、柔道仲間の子でしょ」
山本さんが頬をピンクにして言ってきた。「久しぶりの再会で、燃えちゃった?」

「ち、ちがいます!」
私は長い髪を両手でキスマークの方へ寄せ隠すと、フォークでごはんを一口頬張った。顔がかっかと熱くなる。

「蚊に刺されました」
「うわー、野中さんってカワイイ。嘘がつけないんだねえ」
山本さんが肘をついて微笑んだ。

「それが蚊に刺されたんだとしても、なんらかのアプローチはあったような気がするなあ」
山本さんがするどいことを言う。「あの男の子が野中さんのことを見る感じに、なんか秘めたるものがあったもんね」

「そうですよね、そんな感じでした」
西島さんもうんうんと頷く。