インターネット関連サービス会社『ブライトテクノロジー』に就職してからまだ三ヶ月しか経っていないのに、私のポジションは高校・大学とまったく同じだった。
「野中ー、ちょっとこれ持ち上げて」
広いオフィスの壁際に設置されているプリンタのところで、営業部員の横田さんが手招きしている。
「はいっ」
私、野中花(のなかはな)は、勢いよく立ち上がり、横田さんの隣に駆け寄った。
「こっちの端にプリンタ移動したいんだよな、運んでくれよ」
「わかりました!」
私はプリンタを抱えるようにひょいっと持ち上げると、言われた通りの場所へ運んだ。
「うはー、やっぱ最強」
横田さんが豪快に笑ったので、私もつられて笑顔が出る。
「いつでもまかせてください、得意なんで」
私が腕に力こぶを作ってみせると、横田さんが「おー、任せるよ」と背中をバシンと叩かれた。痛いけど、別に嫌ではない。
「横田さん、また野中さんのこと構ってる」
近くの席に座っていた営業事務の山本さんがニコニコしながら話しに加わってきた。「横田さんだってプリンタくらい運べるでしょ?」
肩までのふんわりした髪にと白い肌、細い手首の山本さんには、女の私でも見とれてしまう。
「いやいや、俺には運べねーって。相当重いよ? 山本さん持ってみ?」
「あー、私には無理ですよ、鍛えてないですし。ぷよぷよですもん」
「そこがカワイイんじゃん?」
そこまで言ってから私に気がついたのか、横田さんは取り繕ったように「野中はカッコイイよ! 頼りになるな」と付け加えた。
横田さんと山本さんが話しに夢中になりだしたので、私は「失礼します」と頭を下げて自分の席に戻ってきた。プリンタを持ち上げたためについた胸元のホコリを手で払うと、「よしっ」と気合を入れて伝票を入力し始めた。