翌朝、部屋から出て来ない佐伯さんを気にしながらも、一足先に出社する。目は泣いて腫れぼったく、軽い頭痛がしていて、体調は最悪だ。

着替えをして席に座ると、山本さんが飛んできた。

「おはよう、どうだった!」
そう言いながら私の顔をみて「うわ」と哀れみの声をあげる。

「ひどい顔。何があったの? 玉砕した?」
「ある意味そうです」
私は目をゴシゴシこする。

山本さんは私の手を引いて、トイレを連れていく。ポケットから何やら化粧品を取り出して「応急処置ね」と目の下にコンシーラーを塗ってくれた。

「坂上本部長にひどいこと言われたの?」
「違います。教えてはくれなかったけど、でも坂上さんのせいじゃありません」
「じゃあ、どうしたの?」

山本さんは洗面台に寄りかかり、腕を組んだ。

「佐伯さんのこと怒らせちゃって」
「……あの人も怒るんだ」
山本さんがちょっとびっくりしたように言う。

「佐伯さんと坂上さんの付き合ってた時のことがあんまりにも生々しかったから、お酒飲んでひっくり返って、佐伯さんを『ケダモノ』って罵って、煽って、怒らせました」