やっぱり、井下をからかうなんて変なこと考えるんじゃなかった……
「名前呼ぶだけじゃなくて……手まで……」
……しっかりヤキモチ妬いてんな。
「名前、呼んでよ」
すると、井下はまっすぐ私を見てきた。
待って待って、心臓もたない!
そんな真剣な表情されても困るんですけど!?
「さ……」
「島谷!」
井下が口を開いた瞬間、どこかのアホが帰ってきた。
私は助かったような、邪魔されたような気分で、それを睨む。
「……なに」
「おお、怖っ。じゃなくて!奏汰に怜南さん紹介するってどういうことだよ!」
「そのままの意味だけど」
なにか変なことでもあるかな。
「俺がいるのに」
「あんたは彼氏じゃないでしょ」
水口は不服そうにして離れて行ったけど、私には関係ない。
横目で井下を見ると、井下は読書を再開してた。
……恨むぞ、水口。
せっかく名前呼んでもらえそうだったのに。
こんなチャンス、滅多にないのに。
「……楓真」
こんな安易なことで名前呼んでもらえるとは思えないけど……
私は井下の名前を呟いた。