「うるせ」
井下は拳で私の頭を小突いた。
それは全く痛くなくて、まあはっきり言ってしまえば……イチャイチャってやつ。
「相変わらず、オーラだけは幸せそうだね?」
この声は……
私は錆びたロボットのような動きで、後ろを向く。
「うわ出た……」
「出たって、酷いなあ」
予想通り、そこには須藤君が作り物のような笑顔を浮かべて立っていた。
酷いのはそっちの言い方でしょうよ。
オーラだけってなにさ、オーラだけって。
今のタイミングなら、普通にカップルしてたじゃん。
……なんて、そんな恥ずかしい反論出来るわけない。
そういえば私、一回あの笑顔にときめいたんだよなあ。
あのときめきを返してほしいよ、まったく。
仕方ない。
自分で好きにしたらって言ったわけだし、自分で解決するか。
「ねえ、須藤君。もう諦めてよ」
「まだ二日しか経ってないのに?」
いや、二日で十分わかるでしょ。
どれだけ長期戦でいる気だったんだ。
「しつこい男は嫌い」
「それは大変だ。紗知ちゃんには嫌われたくないからね」
白々しいなあ。