私たちがいるのが廊下側の一番後ろだから、会話は聞こえる。
ていうかそれはどうでもよくて。
「水口がカップルを語るの?」
水口は不満そうに顔をしかめる。
「語っちゃ悪いか」
水口は教室に入りながら言った。
悪くはないけど、語れるような恋愛してきたようには思えない。
ので、これは水口の想像というか、妄想というか。
そんな感じがしてならないというだけで。
「瑛斗の理想というか妄想だろ。そういうことしか頭にないってことも言っとくか?」
私が思ったことを、井下がそのまま言った。
ああ、そっか。
もう一回同じようなことでからかう、と。
「お姉ちゃんにも言っとくね」
「お前ら意地悪いぞ……」
落ち込むくらいなら、言わなきゃいいのに。
そんな水口を見て、私たちは顔を見合わせて笑う。
「とにかく!」
すると、須藤君が間に入って来た。
「二人が間違ってること、僕が証明するよ」
諦めてなかったのか。
もうその話題終わったのかと思ってたのに。
「勝手にしろ」
井下は呆れたのか、読書を再開した。
逃げていいなら、私も逃げたいのですが。
「そういうわけで、覚悟しててね、紗知ちゃん」
「は?」
この人は急になにを?