井下は絶対に浴衣なんて着ない。


たぶん、面倒だとかそういう理由だと思う。



というか、そもそも持っているとは思えない。



それに私だけが浴衣なんて、恥ずかしい。



「男が洋服なのは問題ないよ。むしろ、そのほうがいい」


「どうして?」


「エスコートできないでしょ」



……なるほど。



「どう?着たくなってきた?」


「嫌ですー」



お姉ちゃんの言うことには納得したけど、それとこれとは別。



「でも、可愛いって言ってもらえるかもよ?」



……たまに言われてるんで、もういいです。



「さ、て、と」



お姉ちゃんの目の色が変わった。


持っていた布が広げられ、花火柄の浴衣があらわになる。



「お、お姉さま……?」



お姉ちゃんにはもう私の声は聞こえてないらしい。


嫌がる私に笑顔で迫ってくる。



いじめだよ!?


ていうか、ホラー!



「いーやー!」