「嫌な思い出だったから、忘れていたのではないか?」


「嫌な・・思い出?」


「辛い思いをしたから、脳が拒絶反応を起こして」


それで忘れていたっていうの?

嘘・・どんなに辛くても忘れちゃいけないことだってあるし、ナギを忘れるなんて絶対ないハズなのに!



「私は、お前の辛い顔を見るよりも楽しそうに笑っている顔の方が好きだぞ」


「王・・様」



なんで?なんでこんなに腑に落ちない?

センリの事だってそうだ。

凄く憎かったのに。

今日は会っても平気だった。

憎い感情が出てこなかった。

それは辛い事だったら勝手に忘れていたというの?


「あの・・・」


「ん?」


「何か・・忘れている気がするんですけど・・思い出せなくて・・」


「ふむ」


「なんでなのか・・わからなくて」



不安定な感情が溢れて来て、私はおろおろと目を泳がせた。

冷や汗すら出て来て。

それを見て、王は憐れんでくれたのか優しく包み込んでくれた。

背中をさすってくれる。


「落ち着け。お前の傍には私がいる」


「は・・はい・・でもっ」


「し。黙って・・」


ぎゅっと抱きしめられると、王の服からお香の香りがして私を包み込む。


「・・・」


それを嗅いでいたら、心が段々落ち着いてきた。

優しい、甘い香りだ。