それから。部屋の内風呂に、二人でもう一回。
 由弦が、あたしだけでも大浴場に行ってこいって言ったのを、あっさり首を横に振って。だってねぇ意味ないでしょ、一人でなんて。
 東屋風の外の露天もこっちも,ちゃんとした温泉で。浸かってるだけで肌がツルツル。大きいお風呂じゃなくたって十分。

 あたしの躰を洗うって聞かないから、無駄な抵抗はやめて由弦の好きにさせる。

「お前の肌、・・・白くて綺麗だな」

「・・・ありがと」

 誰と比べて言ってんの、とか野暮なツッコミはしない。由弦の相手なんか掘り返す気はないし。・・・あたしにそんな権利はないって思ってるし。 

 今まで誰にも触れさせてないところも、由弦だから許して。爪先まで丁寧に洗われた。
 お返しにあたしも背中を流してあげる。こんな風に刺青をじっくりと見るのも初めてだった。

「・・・これ痛かった?」

 描かれた背中いっぱいの黒蝶の羽をなぞるように。

「俺のは手彫りじゃねーから、そうでもねぇよ」

 今は機械を使うとかで。時間も昔ほどかかんないんだとか。

「あたしもタトゥー入れてみよっかな。どっか見えないとこ」

 お揃いの蝶を自分の躰にも残すのも悪くないって、思い付きを口にした。

「・・・勿体ないからやめとけ」
 
 背中を向けたまま、たしなめるみたいな気配のあと。

「そんなモン入れなくても俺が毎晩、消えねぇ跡を付けてやるよ」


 さらっと言われて一人で赤面してる。

 今までどこに隠してたのってくらい、由弦がいちいち色気があって。
 ほんとに困る、由弦のクセに・・・っ。