征一郎さんが何かを云った。日下さんともう一人の誰かが、台車で運ばれたコンテナボックスに生きたまま田原を積みこみ倉庫を出てった。

 ・・・のを、ぼんやりと。薄い膜越しに見てた。

 音が出ない無声映画を観てるみたいに。

 水の中を漂ってるみたいに。

 どっか現実と切り離されて。



『瑠衣』
 
 目を閉じて由弦の声だけ。聴いてた。


 ・・・・・・なんで止めたの。
 あたしは訊いた。

 ちはる。
 由弦が言った。

 だめだ。
 ちょっと怒ってる。

 だって口惜しくないの?!
 泣きそうになると。
 
 もういい。
 そう言った。

 おなじに、なるな。
 言い聞かせるみたいに。

 
 あたしを叱って。・・・淡く笑んだ。気がした。
 

『瑠衣』

 名前を呼ぶ声が響いて。
 背中からあったかいナニかに包まれてる。

 そっと・・・、そっと抱かれてるみたいだった。


 愛してる。
 やさしく聴こえた。

 愛してる。


 愛してる。


 何度も聴こえた。


 低くて聴き心地のいい、由弦の声。
 

 あたしも。あたしも愛してる、由弦。
 だから行かないでよ、そばにいて。
 カラダなんか無くなっていい、見えなくてもいい。
 瑠衣って呼んでくれるだけでいい。
 そしたら生きてける。ちはると二人でがんばるって、約束するから・・・っ。
 行かないで、行かないで、行かないで!!
 ワガママなんか言わない、困らせたりもしないから、ねぇっ。
 一生のおねがいだからっ。


 ここにいて。

 

 あたしはいつの間にか。うずくまって泣きじゃくってた。
 

『瑠衣』


 ひと際、愛おしむように。耳の奥に残った声が。
 最後にあたしを空気ごと抱き締めて。・・・・・・消えた。