思い過ごしだと思った。あたしの願望が聴かせた声だって。
 
「待っ、・・・たす、・・・やめっ」

 往生際の悪い男が命乞いの言葉を引き攣らせ、不自由な体を捩らせながらもがいてた。
 握る銃は軽量でそれほどの重さは感じない。もう一度、銃口の先に目を凝らして、指先に力を込め直す。



『瑠衣』


 知ってる。声。耳の中に響くように。・・・・・・聞き違いじゃ、ない・・・?

 

 あたしは。



 息を忘れたみたいに。



 そのまま。



「・・・瑠衣?」

 隣りにいるハズなのに。洋秋の声が。膜を通したみたいに、たわんで聴こえた。

 いま起こってるコトが現実なのか、それとも白昼夢なのか。まるで分からなくて、ただ茫然と立ち尽くす。

「・・・・・・ゆ、づる・・・?」


 とうとう。自分が壊れた。由弦を想いすぎて幻聴が聴こえる。



『・・・瑠衣』

 
 もう。なんだっていい。夢でもウソだって。

 ずっと。・・・ずっと聴きたかった、呼んで欲しかった・・・っ。
 もう一度。もう一度だけあたしを呼んで、愛してるって。
 俺はいつでもそばにいるって・・・!

 せめて。二度と会えないならそう言ってよ。
 叶わないって分かってて、どんだけ願ったか!

 
「・・・由弦ぅ・・・っっ」
 
 
 目の前が。涙で揺らいで見えなくなった。
 このクズ男を殺して終わらせる。
 由弦の痛みを思い知らせて、地獄に送ってやるから。

 
 思いきり引き金を引こうとしたのに。





『瑠衣』



 静電気に弾かれたみたいに、あたしの手から銃が。転がり落ちた。


 もういい。



 止めたのは。


 由弦だった。