「・・・なんで自分がこんな目に遭ってるか分かんないでしょ?」

 苦し気に喘ぐ田原にあたしは低く言った。

「オマエはあたし達の由弦を殺した」

 
 あたしの最愛の男を。

 ちはるの父親を。
 
 洋秋の右腕を。

 ヤマトの兄貴分を。
 
 征一郎さんのたった一人の弟を。


「だから死んで当然よ。骨も残さないで、この世から消えて無くなればいいのよ。オマエさえいなきゃ、由弦があたしを置いていなくなるなんて無かった・・・。帰って来るハズだった、今頃ちはるを抱っこして、あの子をあやしながらシアワセな顔で笑ってるハズだった・・・っっ」

 言いながら。奥底から込み上げてきた悲しみと怒りに溢れた涙。 
 
「あたしとちはるを残してかなきゃなんなかった由弦の気持ちが、オマエに分かる・・・?! どんだけ口惜しかったか、たったの三ヶ月、全部これからだったっ、新婚旅行だって、みんな! それなのに・・・由弦はちはるに会うことすら出来なかったっ、声を聴くことだって・・・っっ」 

 
 全身から声を振り絞りながら、躰中の細胞が叫んでるみたいだった。
 由弦への想いが噴き出して、いっぱいになって。

 その分、目の前の醜悪な肉の塊への憎悪ではち切れそうになった。
  
 ゼンブ、オマエノセイ。オマエガ、コワシタ。オマエガ、コロシタ。


「・・・・・・も、いいから。・・・死んで」

 乱暴に掌で涙を拭い、あたしは着ていたダッフルコートのポケットから取り出したそれを持ち、両手で構えた。
 車から降りる前に洋秋から手渡された小型の銃。
 撃ったことなんか無くても、この至近距離なら間違いなく当たる。
 
 日下さんが田原の足に粘着テープを巻き付け、身動きが取れないようにしてから離れ、あたしはスライドを引く。
 その音に目隠しされたまま芋虫みたいに転がった田原が、見苦しく足掻いてた。

「・・・瑠衣、狙わなくていい。適当に撃ち込め」

 洋秋の声がどっか遠くから聴こえてる気もする。

 深呼吸。1回、2回、・・・3回。

 銃口が鈍色に光って。

 トリガーにかけた指に力をこめる。

 由弦の名を呼んだ。

 ココロの中でだったのか、口に出してたか憶えてない。 

 ぐっと引き金を引く瞬間。



『瑠衣』






 由弦が。あたしを。・・・呼んだ。