あぁ、なんでもっと早くこうしなかったのかな、なんて後悔したりもした。

死のうとしているこの瞬間、あたしはとてつもない幸福感に満たされていたから。

こんなに簡単なことだったのに、なんで今まで辛くて苦しくて悔しくて惨めで悲しい思いばかりしてきたんだろう、と。

早く死ねなかった自分が可哀想に思えてきた。



普通なら恐怖を感じるでしょう?
冬空は光りも届けてはくれなくて、ひたすら寒くて唇はパリパリになって手足は冷えきって小刻みに震えてしまう。
ひとりきりで海までやって来てこれから死ぬんだから。


でもあたしは生きてきて、感じたことがない幸福感に包まれて恐怖もない。
海を前にしてひどく落ち着いていたし、死ぬべくして死ねるのだと痛感した。





「靴下まで濡れちゃったでしょ」