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 昨日は、どうやって帰宅したのか分からない。気付けば駅で、次ぎに気付いたときは家の玄関だった。よく転んだりせずに帰ることができたなと思う。

 今日もとてもいい天気で、校舎2階の図書室から見える校庭では野球部とサッカー部が準備運動をしている。外周を走っているのは陸上部か、または体力作りメニューをこなすほかの部活か。タロちゃんは授業が終わってすぐ体育館へ行ったから、男バスじゃないのはたしか。

 まぁ、べつにどこの部活でもいいんだけれど……。溜息を前に飛ばす。

 帰りたくなくて図書室に来た。しばらく経つのだけれど、勉強をするふりをしている。

 図書室は、生徒が少ない。テスト前になると多くなったりするのかな。
 空気を吸いたくて窓を開け、窓枠に引っかかるようにして外を眺めていた。

「おい、落ちるなよ。そこのJK」

 降ってきた声に顔をげると、小谷先生だった。ジャージ姿の小谷先生は、授業のときと違ってやはりスポーツをするひとって感じだ。

「お前、外から見ているとあれみたいだぞ。コップのふちに引っかかっているあの人形」

 ということは、小谷先生、外からわざわざここにやってきたのか。

「先生、ジャージが決まっていますね」

「まぁな。私服も格好いいんだぞ」

 思わず小さい溜息をついてしまう。先生はいつもこんな調子だけれど、生徒に人気はある。わたしだって好きな先生だ。

「昨日、お前と亜弥が来てたの見えていたけれど、いつの間にか亜弥だけになってたな」

「先生は部活に行かないんですか?」

「資料を取りに来ただけだ。すぐ戻る」

 向かいの席に本をドサリと置いて、椅子に座った。分厚い本は、運動の本と数学問題集だった。
 小谷先生のペンケースには『仙台sparrows』のキーホルダーが付いていた。

「なにお前どうした。具合でも悪いのか」

 そう聞かれるとなんともないのにお腹や頭が痛くなりそうだった。わたしは窓枠に引っかかったままで先生を見た。

「……先生って、なんでバスケやろうと思ったんですか?」

「お、いいね、そういう質問。ええとね、女子にモテたかったから」

「動機が不純ですけれど……」

 茶化した答えが不満だったので、先生を睨んで口を尖らせた。

「結論的には好きだから、なんだけれどな。親父がやっていて、そこから。赤ん坊の頃からバスケットボールで遊んでいた。できるようになってからは、ゴール決めた快感が忘れられないとか、チームプレイの楽しさとか」

「なるほど」

 先生は目を輝かせて話す。タロちゃんと同じだ。バスケが好きだと伝わってくる。
 考えてみれば、和泉くんはバスケの話をしたことが無い。聞かないから話さないのかもしれないけれど。

 やっぱり、辞めたからなのか。
 小谷先生は知っているのだろうか。和泉くんがあんなことを言っていることを。