「俺も、名前しか知らなかった子の手芸の腕前がこんなに凄いと分かった」

「へへ。なにも取り柄が無くて。こんなんしかできないんだけれど」

「いや、凄いよ。ありがとう」

 こちらこそだよ。ありがとう。
 そして、和泉くんのいいところまたひとつ、知ったよ。素直にありがとうと言えるひとなんだ。

「このお守り、よく効くし、和泉くんを守ってくれます」

 自信を持って言える。

「そりゃあ、ありがたい」

「魔法がかかっているから」

 言ってすぐに、強烈に恥ずかしくなってきた。でも、わたしの気持ちという魔法がかかっているのは本当だ。

「バスケの試合に勝つとか、落とし物が見つかる、あとはね、風邪の予防とか」

 本当に、なにを言っているのだろうか、わたし。

 面白かったのか、どうしようもないなと思われたのかは分からないけれど、和泉くんの笑顔が見られたから、よしとしよう。

「このお守りで、俺もがんばれる」

 キーホルダーを大事そうに手に乗せて、深呼吸をしている和泉くん。

「……和泉くん?」

「あ、いや。いろいろあるから、人生って」

「どうしたの?」

「なんでもないよ」

 出会ったばかりのわたしに、なんでも言えるわけない。

 なんでもないよって言ったあと、大きな目にちょっと悲しみのインクが1滴、広がったのが分かった。じわり、と。見つけてしまった。なんだろう。その感じ。

 和泉くんの前に回り込んで、正面から彼を見る。

「あの、和泉くん。お願いがあるんだけれど」

なに? という感じで彼が首を傾げる。
「わたしと、友達になってください」

さっき思いついたお願いごとだった。

「あのほら、キーホルダーと交換ってことで、どうかな?」

「あ、これのお礼はするよ」

「お礼とかいらないから! だから!」

 前のめりに言うわたしを見て、和泉くんが吹き出す。ああ、奇行だっただろうか。

「……いいよ。俺でよければ」

 じんわりと心が温かくなる。友達への1歩を和泉くんがくれた。嬉しくて泣きそう。もう妄想で心の空洞を埋めなくていいのかもしれない。

 キーホルダーが全力を出して、和泉くんを守ってくれるといいなと思う。わたしの分まで叶えてくれればいいなと思う。