夜通し聞こえる、地鳴りのような呻き声でうとうとしかけては起こされた。

終いには目が冴え渡り、目だけ蒲団から出し耳を塞ごうと試みた。

呻き声は尚も激しさを増し、金切り声に変わった。

おぞましい雄叫びは人の物とは思えず、恐ろしさで着物の背中は汗でぐっしょり濡れ冷たかった。

空が白み、朝陽が部屋に射し込む頃になり、やっと呻き声は収まった。

ホッと胸を撫で下ろして蒲団から起き上がると、台所からか朝の支度の音とともに香りを運んできた。

「朝偈だよ」

大股で廊下を鳴らし部屋を覗いた女は襷を肩に回しまま、いきなり蒲団を剥ぎ取った。

寝乱れた浴衣の前身頃を慌てて合わると「早く起きてこないと食いっぱぐれるよ」と女は踵を返し、再び廊下を鳴らす。

夜通し眠むれなかったせいか、食いっぱぐれると聞いて腹が恥ずかしいほど鳴った。