「ヴェーン侯爵様は我が国の英雄です。交渉の仲介をしてくださり、あらゆる進言をしてくださいました。カタリーナ様が、この国に嫁ぐことが出来たのも侯爵様のお陰です。ですから姫は貴女に……」

「シラ」

「ですが姫様!」

「いいのよ。私がちゃんと話さなかったのがいけないの。エレアノーラ様は何も悪くないわ」

「おかしいと思ったわ。ただの愛人にこんなに付き纏うだなんて。興味があったのはヴィンスの愛人じゃなくて、ヴェーン侯爵の娘だったのね」

「いいえ。私は、そのどちらにも興味があったのよ。そして貴女自身にも」

「随分と悠長ね」

「私はね。エレアノーラ様が、あの人の愛人だからって糾弾するつもりはこれっぽちもありませんの」

「本妻の余裕というやつかしら?」

 穏やかに笑む彼女に対し、嘲笑を向ける。しかし怒りを浮かべたのは彼女ではなくメイドの方で興が冷めた。