──ボクね、明日戻るんだ。






そんな言葉がリアくんの口からもれたのは、出会って一週間が経った頃だった。



「……え?」


今日もKUISガーデンでリアくんに昔話を教えていた私は、その言葉の意味がつかめず、ただ呆然とする。


「もど、る?」


どこに、なんてそんなわかりきった質問は、出てこなかった。

その代わりに出た声は、かすれて震えていて。


リアくんが、小さくうなずく。


「明日でちょうど1ヶ月なんだ。学校が終わったら、お昼の便でアメリカに帰る」


──そうだ、彼は、留学生。

1ヶ月経てば自分の国に帰るなんて、そんなのわかっていたはずなのに。


「…っそっか、そうだよね」


帰ってほしくない。

なんてそんなこと、言えるわけないよ。


無理に作った明るい私の声に、リアくんが寂しそうに笑った。


「だからもう、アヤネともお別れだ」


はらり。

新緑の葉っぱが、彼の柔らかい金色の髪に舞い落ちる。

優しい風に乱された私の髪が、目の前のリアくんの姿を隠した。


「……うん。そうだね」


帰らないで。このままずっと、ここにいて。

だって私、君のことが。


本当は伝えたいこの気持ちは飲み込んで、聞き分けの良いふりをして笑顔を作る。


「日本は楽しかった?」


リアくんはちょっとだけ首を傾げて、それからうん、とうなずいた。


「アヤネのおかげで、すごく楽しかったよ」


ボクにたくさんお話を教えてくれて、ありがと。


甘い甘いその声は、私の耳を溶かしてしまいそうなほど。


私のおかげ、なんて。
そんな、期待してしまいそうなことを、あっさりと。


「……どういたしまして」


赤くなった顔がリアくんに見られていませんように、なんて、目の前にいる彼に向かって無駄なお願いをしながら、私は呟いた。