取っていた講義もすべて終わり、私はKUISガーデンのベンチに腰掛けて、大好きな物語のページをめくっていた。



大学生にもなって、と思うかもしれないけど、私は日本の昔話が大好き。

「かぐや姫」とか「鶴の恩返し」のような有名なものはもちろん、「うぐいす姫」みたいなちょっとマイナーなものも好きだ。
中でも一番のお気に入りは、「天の羽衣」。


やっぱり、日本らしい温かくて柔らかい雰囲気が、昔話の魅力だよね。




何度もめくったせいか、所々すれてしまっているページ。


そこに並んだ文字を夢中になって追っていく。




──と、不意に。

ふわり、と目の前が影になった。


曇ってきたのかな、なんて、のんきに空を見上げようと目を上げたその瞬間。






目の前に立っていた青年と、ばっちり目があった。




柔らかい、金色の髪。

空をそのまま写しとったみたいな、青い瞳。



──明らかに、外国人。





「…っ!」


確かにうちの大学には何人も留学生がいるけど、でも、こんな近くで。


てゆーか私まだ1年生だし!?
入学して3ヶ月くらいしか経ってないし!?


「え…えっと、」


日本語通じるのかな…。

てゆーかこういうときのために、わざわざ国際コミュニケーション学科を選んだんでしょ!?

受けた講義を役に立てなくてどうするの!?



「…っ」


とりあえず挨拶をしようと口を開くと、青年がこて、と首を傾げた。

その拍子に、彼の絹糸のような髪が、ふわりと揺れる。


「それ、日本の本?」


なんとも流暢な日本語が、彼の口から飛び出した。

さっきの脳内パニックは何だったんだ。


「あ…はい。『天の羽衣』っていうんです、けど…」


予想外な質問に、あわててうなずく。

青年は、興味深々な様子で私の隣にちゃっかり座った。