リアくんが私のお家に来てから5日が経つ。
彼と過ごす毎日は、予想以上に楽しかった。
大学に事情を話したリアくんは、パスポートが見つかるまでの間留学生別科で講義を受けられることになり、毎朝一緒に学校に行っている。
帰りは夕飯の買い物を一緒にしたり、少し遠回りして帰ってみたり。
寝る前には昔話を一緒に読んで、お話して。
彼と過ごせば過ごすほど、離れたくなくなった。
カバンに入れたままのパスポートを返すタイミングを失って。
あと少しだけ。
自分にそう言い聞かせ、私はいまだリアくんに嘘をついたまま。
今日も1日を終えて布団に座った私とリアくんは、昔話の古びたページをめくっていた。
ふわ、と隣にいた彼が、小さくあくびをする。
こし、と目をこするその仕草が、何だか幼かった。
「何か眠くなっちゃった」
そんなことを言って、大きく伸びるリアくん。
私を見て、彼が優しく笑う。
「もうそろそろおやすみにしよ?ほら、もうこんな時間だし」
「うん、そうだね」
私の家に来たばかりの彼は、遠慮して眠たいと言い出せずに寝落ちしてたけど、今はちゃんと伝えてくれる。
それがすごく、嬉しかった。
何だか心を許されている気がして。
信じてもらえている気がして。
ふふ、と小さく笑みをもらしながらリアくんを見る。
何笑ってるの?と言われると思ったけど、彼は私を見ていなかった。
眠たげな青い瞳がとらえているのは、壁に貼ってある世界地図。
明らかにその一点──アメリカの辺りを、ぼんやりと眺めている。
声をかけようとして、言葉に詰まった。
寂しそうなその表情に、罪悪感ばかりがつのって。
リアくんが、はっとしたように私を見て笑う。
「おやすみ、アヤネ」
優しいいつもの彼の笑顔なのに、今にも泣き出しそうに見えて。
「…うん、おやすみ」
でもやっぱり、本当のことは言えないままうなずくことしかできなかった。