翠玉は覚悟を決める。


「ええ、実は、今日も。」

「あら、そう。」

「でも、変なんです、兄様。」


どこがどう変なのか、詳しくは翠玉には言えない。
それはあの場で内密にすませたことだったから。
言ってしまったら、金剛の立場がただではすまないことを判っているから。
紅玉が傷ついてしまうのが判っているから。

考えた挙句、翠玉はすがる様な瞳で姉を見つめ、伝えた。


「兄様には気をつけて。姉様。」


祈るように、紅玉の衣を、ぎゅっとつかむ。


「兄様の心をしっかり、捕まえていて。」


突然の翠玉の言葉に、紅玉は動揺を隠せない。


「どういうこと?金剛様に何かあったの?」

「詳しくは言えない。でも私は姉様の味方よ。」

「そう…ありがとう。」


翠玉の突然の行動に、紅玉はどう反応してよいのやら判らない。


「姉様、先日は金剛様とお会いできなかったんでしょう?近々改めてお会いになってはいかが?」

「そうね…お願いしてみようかしら。」

「ええ…ねぇ、姉様、お姉様はお綺麗よ。金剛様はまだ姉様の魅力に気付いていないだけ。金剛様の隣にいて釣り合うのは、姉様しかいないのよ。」


エメラルドグリーンの瞳が、潤んでいた。


兄としてか男としてかは判らなかった。
しかし、翠玉は、金剛を慕っていたのではなかったか。
金剛の横にいる紅玉に向ける視線は、嫉妬の込められたものではなかったか。

それが、今、紅玉の味方だと訴えている。
自分を褒め讃える。
あたかも、泣いてすがるかのように。

いつになく懸命な翠玉の様子に、紅玉は違和感と不安感を覚えざるをえなかった。