紅玉は、自室で笛を吹いていた。

紅玉の笛は軽やかで、聴く者の心をも穏やかに、軽やかにさせる。
紅玉の一番の特技だ。


翠玉は、そんな紅玉の部屋の前でしばし躊躇していた。

自分は紅玉に何を伝えようとしているのだろう。

それによってプライドの高い紅玉はどれだけ傷つくだろう。

だけど、女として傍にいられないなら、せめて妹として金剛の傍にいたい。

何も知らない女に奪われて、関係の無い人になってしまいたくない。


それなら今は、紅玉に頼るしかないのだ。


翠玉は必死で自分に言い聞かせ、紅玉の部屋をノックした。


笛の音が止み、しばらくしてドアが開く。

紅玉は相変わらず美しかった。
凛とした、プライドの高さを感じさせる整った小さな顔。

傷つくと驚くほど弱い一面を見せることを、翠玉は知っている。

だからこそ、どこまで伝えればよいのか迷っていた。


「どうしたの?珍しいじゃない、わたくしの部屋に来るなんて。」


紅玉は澄んだ声で不思議そうに問いかける。


「小さな頃は、よく来ていたわ。もちろん最近はそんなに頻繁には来ていないけれど。」


翠玉は話の核心を切り出せず、まごまごしている。


「そうね、最近は金剛様の工房の方が楽しいようですものね。」


紅玉は、できるだけ皮肉に聞こえないように、冷静を装って告げた。