帰り着いた翠玉を出迎えたのは、白銀であった。
白銀は眉根を寄せて、困ったように翠玉を見つめている。


「翠玉様。また、金剛様のところへ?」


白金は、石埃まみれのドレスを見ただけで翠玉の訪れていた先を判ってしまったのだ。
気まずい様子で翠玉は返事をする。


「…ええ。」

「黄金もわたくしも申したはずですよ、金剛様は紅玉様の夫となられるお方…。」


聞き飽きた白銀の言葉を遮るようにして翠玉は続ける。


「私も年頃なのだから、お傍に寄るのは控えなさい、と。」


白銀は少々面食らった様子で、


「そ、そうです。解っているのなら少しお控えになってはいかがですか?このところ、ことに頻繁に通われているご様子。紅玉様を差し置いて金剛様にお会いになって、申し訳ないとは思わないのですか?」

「兄様は私のことは妹としてしか見ていないわ。姉様にやましいことなんてひとつも無い。」

「だとしても、紅玉様のお気持ちを考えて、少し遠慮されるべきです。翠玉様も、もう立派な大人。子供のような我侭を通せるお年頃でもないのですよ。お転婆も少し控えて、もう少し王家の姫としての品格をお持ちになられないと…」


白銀のこの調子だと、口うるさいお説教が長引きそうだ。
翠玉は少しの間躊躇したが、意を決して白金に告げた。


「姉様はどこにいらっしゃる?」

「紅玉様ですか?笛の音がしておりましたから、自室かと。」

「ありがとう。」


翠玉は逃げ出すように白銀から離れ、宮殿の上階へ向かった。