翠玉に腕を引かれ、神殿から帰る道すがら、金剛は不満げだった。


「翠玉、お前、つけていたのか?」

「ごめんなさい。」

「立ち聞きとは悪趣味だな。」

「…ごめんなさい。」

「…まぁ、内密に片付けてくれたことには感謝する。」

「そのことなら結構よ、私も怒られるのは嫌だったから。」

「そうか、お前も見つかることになっただろうからな。」

「ええ。」


話しながら、翠玉は上の空だった。

嫌な予感は的中した。

夢中になっているラピスラズリは、瑠璃のために作られている。

しかも金剛は、ますます興味がわいた、と言った。

金剛の性格上、それはつまり好意を抱いたということにはならないだろうか。

嫌な音を立てる心臓を抑えながら、翠玉は口を開く。


「兄様…あのひとが好きなの?」


金剛はしばし考えるように沈黙する。

数秒の沈黙が、翠玉には耐えられなかった。


「…興味をかきたてられていることは確かだ。」


金剛の返事に、目の前が暗くなったような気がしてくる。

金剛のことだ、ラピスラズリの細工物を仕上げたら、瑠璃に渡しに行くだろう。


その後は?

金剛の心はそれで満たされるだろうか?


湧き上がる不安に、翠玉は胸を締め付けられるようだった。