かしずいた瑠璃に、金剛は慌てて声をかける。


「ああ、いいんだ。普通にしていてくれ。」


困ったような顔を上げるが、瑠璃は姿勢を崩さない。

金剛は自分もしゃがんで、瑠璃に目線を合わせた。


「三の巫女、というと?」

「鋏(はさみ)の巫女です。」

「…運命の糸を切る役目か…。」

「ええ。」

「辛い役目では?」

「…そうですね、人に愛着を持ってしまえば、辛いかと。」

「…持たぬ内は、平気だと?」

「ええ。」


瑠璃は極めて冷静な顔で答える。
金剛は少し戸惑った。


「誰にも愛着が無いというのか?親にも?」

「親は幼い頃に亡くしました。お役目に就いてからは誰にも愛着を持ちません。」

「恋人にも?」

「巫女ですから、恋はしません。」

「そうか…。」

「必要ありませんから。」

「誰にも愛着を持たぬのは、寂しくはないか?」

「誰かに愛着を持ってしまって、その人の糸を断ち切る時の方が、誰にも愛着を持たないよりも寂しいのではないかと思います。」


金剛は、思わず絶句した。

自分が想像もできない孤独の中で暮らしているのだ、この巫女は。

本人は冷静に話しているが、ここまで辿り着くのに苦労は無かったのだろうか。

金剛は、話す瑠璃の瞳の強さに驚いていた。迷いの無い瞳。
ラピスラズリと同じ、美しい藍色だった。