結局翠玉に押し切られ、金剛は遠乗りをすることになった。

金剛の宮廷の厩から2頭の馬を借りようとすると、翠玉はそれを止めて、


「兄様とふたりで乗りたいわ。」


と言った。
断る理由もなかったので、


「じゃあゆっくり行こうか。」


と、金剛も了承した。


金剛の白馬の上で、翠玉が金剛にしがみつく。
温かな金剛の体温や、たくましい身体に触れることができて、翠玉は幸せだった。

馬はゆっくりと走り出す。

金剛と完全にふたりの空間になったと感じて、翠玉は考えていた疑問を金剛にぶつけた。


「ねえ、兄様、そんなに姉様がお嫌い?」


金剛の身体が一瞬硬くなる。


「答えにくいことを聞くんだな。」

「だって妹の私からみても、姉様はとても魅力的な女性ですもの。私のようにおてんばではないし、気品に満ちて凛として、華やかで、実に王族らしくて。だから、兄様が嫌っていらっしゃるのなら、理由を知りたいと思って。」


金剛はしばらく黙っていたが、静かに答えた。


「紅玉姫は…情熱的すぎる。自分が愛されることばかり考えて、俺に求めてくる。求めるばかりで、俺のどこが好きなのかさっぱり見えない。…俺はそういうのは苦手だ。」


たしかに紅玉の愛し方は一方的だった。
許嫁という立場もそうさせるのだろう。
金剛も自分のことを愛していて当たり前だと思っているのだ。

だから毎回裏切られて哀しい想いをしている。


黙っていた翠玉に、金剛が申し訳なさそうな声で言う。


「お前にするべき話ではなかったな、忘れてくれ。」

「努力します。」


翠玉は、硬い声で答えた。