時間にして数秒だったかもしれない。
けれど、あたしにとっては何時間も経過したような長さを感じていた。
「なんで!?」
紗菜の叫びに似た声でハッとして目を開けた。
目の前に唖然としてスマホ画面を見つめている紗菜がいる。
一体、なにがどうなったんだろう?
怖くて自分のスマホを確認することができない。
「なんであたしが負けたの!?」
悲痛な悲鳴を繰り返す紗菜に、あたしは目を見開いた。
紗菜の言葉に教室内がざわめきだす。
あたしは恐る恐る自分のスマホ画面を確認した。
そこには赤い文字でWINと書かれていたのだ。
それをジッと見つめて確認する。
WIN。
あたし、勝ったの……?
わからなくて、紗菜のスマホを覗き込んだ。
そこには青い文字でLOSEと、書かれている。
敗北。
あたしはようやく紗菜が取り乱している理由を理解した。
あたしは勝った。
あたしは勝ったんだ!
拳を突き上げて喜びたい気分をグッと胸の奥へ押し込める。
「なんで!? 後出しで勝てるって書いてあったじゃん!」
紗菜は悲鳴に近い声を張り上げてスマホを見つめている。
その言葉にハッとして教室内を見回した。
紗菜が負けたことをみんなが驚いている様子だ。
もしかしてみんなはあたしとのゲームがフェアになった事を知らないままなのかもしれない。
あたしは自分のスマホに視線を落とした。
すでにゲームは終了している。
とことん性格の悪いゲームだ。
あたしはそう思い、泣き崩れる紗菜を見おろしたのだった。
あたしが王様になったところで、命令することなんてなにもなかった。
紗菜は自分の机に戻り自習を始めている。
あたしも同じだった。
「おいおい、せっかく奴隷を手に入れたのにもったいないな」
あたしの席に近づいて来てそう言ったのは颯樹だった。
顔を上げ、颯樹を睨み付ける。
「なんだよ、そんなに怖い顔して」
「あたしは王様なんかじゃない」
「はぁ? でも勝っただろ。1日紗菜を奴隷にできる」
「紗菜はクラスメートで、奴隷じゃない」
あたしがそう返事をすると、紗菜が少しだけみじろきをするのが見えた。
「まぁ、そんなことはどうでもいいけど。これ、見て見ろよ」
颯樹があたしの机にスマホを置いてそう言った。
画面には何かのショップが表示されている。
「なにこれ」
「《絶対命令アプリ》内で使えるショップだ」
その言葉にあたしは顔をしかめた。
「そんなのあたしには関係ないから」
そう言って教科書へと視線を戻した。
しかし、その教科書を颯樹が奪い取ったのだ。
「ちょっと、なにするの!?」
「お前も誰かを誘って仮装通貨を手に入れろよ。面白い買い物ができるぞ」
颯樹の言葉にあたしは顔をしかめた。
ただでさえ十数人からゲームの申し込みが来ていると言うのに、自分から誘うなんてありえない。
「お前、まだ誰にもアプリを紹介してないだろ」
颯樹に言われてあたしは言葉に詰まってしまった。
その通りだった。
誘われたゲームを全部終わらせたとしても、アプリの紹介か新しい誰かとのゲームが残っている。
どちらにしても、あたしはこのゲームを第三者に拡散することになるのだ。
「それなら、自分からゲームに誘って仮装通貨を出に入れる方が賢い」
そうかもしれない。
負けた紗菜にだって1億円という大金が入っているはずだ。
「それに、これ見てみろって」
そう言われ、渋々颯樹のスマホに視線を向ける。
そこにはゲームで有利になれるグッズが沢山表示されている。
例えば対戦相手の画面上に現れて相手の気持ちをコントロールするキャラクターなんていうものある。
価格は1億円を超えているけれど。
「これを購入すれば1度に何人もの奴隷を手に入れる事ができる」
颯樹が1つの商品を指さしてそう言った。
その先にはイモのイラストのアイコンがあった。
誰かと主従関係にいながらも、他の誰かとゲームができるらしい。
上手く行けば芋づる式に奴隷を増やす事も可能、ということのようだ。
「こんなアイテムがあっても、ジャンケンに負けたら意味がない」
あたしはそう言って颯樹を見た。
「お前なら勝てるだろ」
颯樹の言葉にあたしは目を見開いた。
颯樹はもう気が付いているのだろう、あたしとのゲームがフェアに戻ったということを。
「ジャンケン、強いんだろ?」
「……どうして知ってるの?」
確かにあたしはジャンケンが強かった。
子供の頃から相手の表情を読むことが得意で、ジャンケンなどの簡単なゲームの時には必ずと言っていいほど勝って来た。
「このゲームが始まってからクラスメートのことは独自で調べたんだ。ジャンケンの勝率を調べて行くと、お前がダントツで強かった」
颯樹の言葉にあたしは頭痛を覚えた。
こんなゲームでこれだけ本気になっていることが信じられなかった。
しかし、颯樹は真剣だった。
「このゲームに勝ち続ければ絶対に成功する」
そう断言している。
いくら沢山の奴隷がいたって、たった1日でその関係は解消されてしまうのだ。
そんなの意味がない。
そもそも奴隷なんて必要ないし……。
そこまで考えた時、ある考えが浮かんで来てあたしは小さく息を飲んだ。
「どうした?」
颯樹が聞いてくるが、あたしは左右に首を振った。