龍使いの歌姫 ~幼龍の章~

一日経つごとに、ティアは少しずつだが、言葉を覚えていった。

どうやら、一日に一言しか覚えられないと、観察しているうちに分かったのだ。

『ご飯!』

「そう。これは?」

『リンゴ!』

リンゴを差し出すと、嬉しそうに食べる。取り敢えず、四日目でやっと「リンゴ」と「ティア」は言えるようになった。

この調子で、少し長い言葉も覚えさせていければ、ティアともっと意思を通わせられるだろう。

『……?ピギィ!』

リンゴをバクバクと食べていたティアは、不意に鼻をピクピクと動かし鳴く。

「?どうしたの?」

レインが首を傾げると、ティアはリンゴを放り出してとことこ歩く。

「あ!待ってティア!」

放り投げられたリンゴを急いでリュックに詰めると、ティアの後を追い掛ける。

ティアは何やら、犬のようにクンクンと地面やそこら辺の匂い―空気の匂いを探っている。

一体どうしたのだろうか?

「ティア?何かあるの?」

『ピギィ!』

レインの質問に、ティアは顔だけ振り返って頷く。

(あの人ではないと思うけど………)

竜騎士と呼ばれていた男の気配が分かったとしたら、ティアは恐らくレインのリュックに隠れるだろう。

その様子は見られないことから、何か別の理由があるのだろうが。何が起こるか分からない。

念のため、何時でも矢を放てるように、弓矢を持っておく。

暫く道なりに進んでいくと、ティアは右へと曲がった。

そちらは、完全に獣道である。

「ティア?」

一応来た道が分かるように、レインは矢を木に刺しながら進む。

そろそろ補充をしなければ、足りないだろう。

『ピギィ!』

ティアはピクッと耳を震わせ、一気に走っていく。

「!ティア!」

ティアの姿が森の奥に消え、レインは焦る。

『ピギィー!』

ティアの悲鳴に似た声が聞こえ、レインは走る速度をあげた。

深い森を走り抜け、開けた場所に出る。

そこには―。
「………赤い……髪……」

昔見た、自分以外の赤い髪。

銀色の龍に乗り、槍を向けてティアを奪おうとした少年。

髪が少し伸びたのか、女の子のように見えるが、間違いなく三年前に会った人で、レインの記憶に濃く残っていた人だ。

「!」

レインは少年の様子がおかしいことに気付いた。

少年はぐったりとした様子で、岩へと体を預けている。

側に寄って顔を覗きこむと、額からは汗が流れているし、頬も少し赤い。

「はぁ……はぁ……」

呼吸も不安定で荒く、左肩には何かで切られたような傷がある。

「怪我してる。それに、熱も出てるんだ」

レインは少年の額へと手を当てる。そして、自分の額よりも随分熱いことに気付き、急いでリュックから薬草を取り出す。

すぐに煎じなければいけないが、水か氷で額を冷やさなければ。

「布は……これでいいか」

紅花村では、ろくに買い物が出来なかったため、綺麗な布が無い。

取り敢えず、レインの腰に巻いてある帯を外して、それを包帯の代わりに少年の腕へと巻き付けた。

時間が経っているだろうが、出血はまだ酷い。とにかく血を止めなければ。

「……これで良いかな。ティア、この子を見てて!」

『ギョイ!』

新しい言葉が出たな何て思いながら、レインは邪念を振り払い立ち上がる。

一刻も早く、綺麗な水を手に入れてこなければ。

「……っ!」

レインは来た道を急いで走った。刺さってる矢を目印に走り抜け、整えられている一本道へと出ると、今まで歩いてきた道へ走る。

ここに来る途中。山から水を引いている水のみ場があった。恐らく旅人のためにあるものだろう。

(速く……もっと速く!)

息が苦しくなるのを感じながらも、レインは走っていった。

『忌み子』

暗闇の中で、誰かの声が聞こえた。

『生まれてきてはいけなかったのだ……』

これは、何だろうか?そうボンヤリと思っていると、何かの映像が浮かぶ。

『お前は、我らと心を通わせる資格がある。龍使いを名乗るに相応しい心の持ち主じゃ』

これは、自分の記憶だ。

物心ついた時から、自分は龍の谷で暮らしていた。龍と共に育った自分にとって、龍族は大切な家族だ。

龍族の殆どが人間を毛嫌いし、龍を家畜にするために竜へと堕としたと聞いた時、自分がそんな人間と同じだということに、嫌悪感を抱いた。

龍の谷を守る者。または、龍を守護する者として生きてきたのに。

自分という種族が、嫌で仕方なかった。

まだもう少し幼い頃、好奇心から人間の村へ行き、そこで迫害を受けた。

誰もが自分の髪を見て、「忌み子」または「ディーファ」と呼び、冷たい瞳で見下ろした。

ディーファが神を殺した大罪人の生まれ変わりだと聞き、自分の赤い髪が醜く、汚わらしいものだと思え、赤い髪が大嫌いだった。

この髪と同じ赤色も嫌いで、特にリンゴが嫌いだった。

龍の谷にたった一本だけポツンと立っている赤いリンゴの木が、まるで自分みたいで。

『もう誰も失いたくないの!』

三年前出会った少女の姿が、脳裏にちらつく。

自分だけだと思っていたが、少女は赤い髪をしていた。

卵泥棒かと思った。けれども、必死に自分の相棒の爪にしがみつき、卵を取り戻そうとしている姿に動揺した。

自分より少しだけ幼い少女は、とても勇ましく、意思の強い瞳をしていた。

燃える炎のような、真っ赤な瞳を、少年は消せなかった。

もう二度と会うことはない。だから覚えている必要もない。

時と共に忘れていくだろうと思ったのに、少女の姿は色褪せることなく、脳裏に焼き付いていた。

『ピギィ!』

「………しー。静か………ね」

耳元で、誰かの話し声が聞こえる。

『リンゴ!』

「はいは………。食べ………いいよ……熱は………みたい」

少しだけ冷たい手が、自分の額に触れた。何故か、とても安心してくる。

すると、深い微睡みの中、少年はまた目を閉じた。
「……もう、大丈夫だね。それにしても……また会うとは思わなかったな」

自分と同じ赤い髪を、レインはジッと観察していた。

(赤い髪は、忌み子の証。大罪人の生まれ変わり……か)

何故、赤の民の長は神龍を殺せたのだろう?そもそも、何故殺す必要があったのだろうか?

病にかかったなら、病気を治す方法を見付ければ良かったのではないかと、レインは思う。

(この子も、私と同じ存在なんだ)

自分と同じ。けれども、龍と共に生きている少年。

初めて会った時は色々ありすぎて、少年の名前も、何故龍に乗っていたのかも聞けなかったが。

少年は龍の谷から来た。

恐らく、龍の谷に住んでいるのだろう。

(……目が覚めたら、名前……教えてもらえるかな?)

正直、初対面の印象は良いと言えないので、レインとしては複雑だ。

だが、それでも少年を、レインは助けることを選んだ。

『レイン!』

「?」

ティアはレインの膝の上によじ登ると、頬をペロッと舐める。

「ふふっ!どうしたの?」

『遊ぶ!』

どうやら、レインが少年にばかり構うのが寂しくなったらしく、遊べと体全体で表現している。

レインは困ったように眉を下げて、ティアの頭を撫でた。

「ごめんね。まだこの子の容態が心配だから、もうちょっと診ておきたいんだ」

『………タロウ』

ティアは少年に向けていい放つ。

「タロウって名前じゃないと思うけどね」

苦笑いするレインに顔を戻してから、もう一度少年を見た。

『トロロ』

「………もしかしてだけど、悪口言ってるの?………いや、そんなわけないよね」

『ご飯!』

「………多分」

その後もティアは、眠っている少年に向かって、覚えたての言葉を言いまくっていた。

そのせいで、少年がうなされていたので、レインは仕方ないと少年を時々見ながら、ティアと遊んでいたのだった。
「………うっ………?……ここは……」

目を開けると、青い空が見える。

次に左右をゆっくり見る。

どうやら森の中のようだと思うと、少年はボンヤリと昨日のことを思い出した。

「!あいつ!?……っ」

自分を切りつけた男を思い出し、少年は勢いよく起き上がった。だが、腕の痛みに顔を歪ます。

「っ………?……これは……」

自分の腕に巻かれているものに気付くと、眉を潜める。

一体誰が巻いたのだろうか?

次に、自分が寝ていた地面へと視線を移す。何やら柔らかいと思っていたが、絨毯が敷かれていたらしい。

(………誰が………)

どこの誰が、自分を助けたのだろう。もし人間だったら、一体何が目的なのかと、少年は考えている。

すると―。

『ピギィ!』

「!……お前は……龍の子供……」

とことことこちらにやって来たのは、金色に輝く鱗を持った幼龍。

「お前は、何故こんな所にいるんだ?人間の村から逃げてきたのか?」

どことなく、この輝きには見覚えがある気がするが、まだそんなに頭が働かない。

『ティア!』

「……は?」

『ティア!』

聞き返すと、幼龍はまた同じ言葉を繰り返した。

「………ティア?」

『ピギィ!』

今度は首を大きく縦に振って頷く。

(ティア………ティア………どこかで………)

どこで聞いたのだろうと記憶を辿る。

だが、その時―。

「ティアー?」

『レイン!』

森の奥から、人影がこちらに向かってくるのが見える。

手には、何やら見覚えのある槍を持っていた。

人影が開けたこの場所に近付くと、日の光に照らされ、姿が浮かび上がる。

「………お前……は」

赤い髪に赤い瞳。髪が肩より少し下まで伸び、背も少し伸びていたが、幼さの残るその顔は、三年前と変わらない。

驚きに目を見開く自分に、少女はニコッと笑う。

「具合はどう?」
「………」

言葉を発することなくレインを凝視する少年に、レインは少し困った。

少年が目覚める前に森で山菜採りやら、狩りやら必要なことをやっていた時、斜めに傷がついた木を見付けた。

気になって側へ寄ると、根元には長い槍が置いてあり、少年のものだと分かった。

そして、それを持って帰ってきたのだが。

「………」

「………」

さて、どうしたものかと眉を下げる。

「……何のつもりだ?」

「え?」

「何故僕を助けた?何を企んでいる?」

ようやく返事を返してくれたが、思いっきり警戒されてしまっている。

レインは困ったように指で頬を掻いてから、少年に槍を差し出す。

勿論、刃のついてない方を向けて。

「これ、貴方のでしょう?」

少年は黙ったままレインを見つめていたが、暫くして槍を受け取った。

『ピギィ!リンゴ!』

ティアがレインの元へとことこ走り、足に絡み付く。

「リンゴは昨日ティアが食べちゃったでしょう?代わりに木の実見付けたから、それ食べようか」

『ギョイ!』

頷くティアに、レインは苦笑する。返事を「うん」か「はい」にしようかとも思ったが、ティアが「ギョイ」を気に入ってるので、今はまだそのままで良いかと直していない。

「そいつは、三年前のあの時の卵か?」

少年はティアを見ながら、呟くような声で言ったが、レインには聞こえていた。

「そうだよ」

頷くと、訝しげな視線をティアに送る。

「それにしては、生まれるのが早い。それに、こいつは生まれてからどれくらい経っているんだ?」

「ティアが生まれたのは、一週間以上前」

レインの言葉に、少年は衝撃を受けたように固まる。

(一ヶ月も経たないうちに生まれ、言葉を理解し、喋ったのか。それに、三年しか経っていないのに……)

ティアがレインに拾われる前の年月にもよるだろうが、ティアの大きさの卵では、まだまだ生まれない筈だった。

「私の師匠がね、ティアは特別だから、三年で生まれるよって言ったの。それに、大人の龍には二年でなれるかもしれないって」

「……あり得ない。そんなこと」

自分の相棒でさえ、生まれるのに十年かかったらしい。物心がついた時に生まれ、その後は兄弟のように育ってきた。

「でも、本当のことだよ。今ティアがここにいるのが、何よりの証拠だよ」

そう言って、木の実を頬張っているティアを見るレインを真似て、少年もティアを見る。

確かにそうだと、認めざるおえないだろう。

「あ!そんなことより、そろそろ薬草交換しなきゃ。腕見せて?」

「寄るな」

レインが一歩少年へ近付くと、少年は槍をレインに向ける。ご丁寧に刃を向けて。

「何故僕を助ける?僕は三年前、こいつを連れてこうとした相手だ」

「……目の前で怪我をしていたから、助けただけ。それ以上の理由が必要かな?」

首を傾げるレインに、少年は黙ったままだ。

「それに、過去は過去。もう過ぎてしまったことを、今さら言ってもしょうがないでしょう?」

そう言いながら、レインは笑った。

「…………」

少年は槍を下げ、地面へと置き、レインから視線を反らす。

治療を承諾してくれたと取っていいだろうと思ったレインは、少年の側に寄ると、屈んだ。

「もう知ってると思うけど、その子はティア。私はレインだよ。……貴方は?」

「…………アル」

「アルね。……アルくん?それともアルさん?」

自分より少し歳上だろうと思うので、「さん」付けの方が良いだろうか?

「………アルでいい」

「よろしくね!私のこともレインで良いよ」

「お前はお前で十分だ」

名前を呼ぶ気はないと、少年―アルはそっぽを向く。

だが、レインは怒るようなことはせず、笑っていた。

(名前を教えてくれたし、大人しく治療させてくれるから、呼び方は別にいいや)

薬草を張り替えて、また帯を巻く。

「……これは、お前のか?」

「うん。綺麗な布が必要だったから」

「………返す」

他人の帯だから嫌なのだろうかと、レインは訝しげな視線を送る。

だが、そうではないらしい。

「無いと困るだろ?」

帯は着物を落ちないように体に密着させる役割がある。だから、無いと困ると言ったのだが。

レインは首を振った。

「紐で結んであるから大丈夫!」

「………」

狩りで使うであろう紐を腰に結び、どこか誇らしげに親指を立てたレインに、アルは「馬鹿か?」という視線を送った。

レインには意味が全く通じなかったらしいが。


レインから狩ってきた兎を貰い、それをさばいて一緒に食べると、アルはレインを見る。

「どうして、卵を持っていた?」

「……私の、十二才の誕生日の日にね、森の奥で見付けたの」

レインは、アルになら話してもいいかと思い、自分の生い立ちを話した。

何となく、誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

「……私は、私を一番大切にしてくれた人を守れなかった。助けられなかった。……だから、ティアだけは守ろうと思ったの」

ティアナが魔女だと聞いても、アルは顔色一つ変えなかった。

「師匠に拾われてからは、短い間だったけど、幸せだった」

父であり兄であり、生きる術を教えてくれた師である彼を、レインは尊敬している。

一つ難点があるとすれば、ことあるごとに「お父さん」または「パパ」と呼ばせようとするところだ。

あんなに早くお別れするのなら、最後くらい「お父さん」と呼んであげれば良かったと、今少し後悔している。

「お前を拾ったあの男は、一体何者だ?」

「師匠曰く、ただの狩人だって」

「魔法使える時点で、狩人じゃないだろ」

レインは龍から落ち後の記憶が曖昧で、レオンが魔法を使ってるところなど見たことがない。

そのため、アルの発言に目を瞬かせた。

(確かに、私の記憶を読み取れるくらいだから、ただの人間じゃないだろうけど……)

レインとて、そこまで天然ではない。レオンが普通の人間でないことは、薄々気が付いてはいた。

けれども、レオンは大切な恩人であることはかわりない。

「アルは、龍の谷に住んでるの?後、どうしてこんな怪我をしたの?アルと一緒にいた龍はどうしたの?」

「質問が多い」

「聞きたいことは一回でまとめた方がいいって、師匠が言ってたから」

「…………どれから答えればいいか分からないだろ」

ため息混じりにそう言うと、レインはそれもそうかと頷く。

「龍の谷に住んでるんだよね?」

「そうだ」

「何で怪我してたの?」

「切られたからな」

アルの言葉に、レインは目を見開く。何となく、他人から傷つけられたものだとは思っていた。

「誰がそんなことを……」

「さぁ?知らない人間だな。恐らく龍王に仕えているんだろうが。……黒い髪に青い瞳の、大剣を背負った男だ」

アルの言葉に、レインはハッとした。
恐らく、自分が会った男。

竜騎士を名乗りながら、竜や龍を殺すもの。

「その人が、何でアルを?」

「相棒を殺そうとしたから、追い払うつもりで反撃した。そしたら、見事に返り討ちにされた。以上だ」

忌々しそうに顔を歪めるアルを見ながら、レインは目を伏せる。

「……」

『レイン?』

ティアはレインの膝に乗り、二人の話を大人しく聞いていたようだが、レインが目を伏せると、顔をあげて覗きこむ。

「大丈夫だよ。ティア」

『ピギィ!』

「そいつは、お前に心を開いてるな」

アルの言葉に、レインは顔をあげてアルを見る。

「もうそいつは、お前の言うことしか聞かない。生まれる前ならともかく、生まれてしまった後は、僕が何をしても無駄だろう。一度心を通わせた相手に、龍は従うんだ。……つまり、お前はそいつだけの龍使いということになる」

龍使いという言葉に、レインは不思議そうにアルを見た。

「龍使いって?」

「龍と心を通わし、龍と共に生きる者のことだ。僕も龍使いを名乗っているが、どちらかと言えば、龍の谷や龍を守護するのが役割だな」

アルの言葉に、レインは考え込む。

龍使いという言葉、その意味を聞いて、何故か胸の奥がざわついた。

初めて聞いた言葉の筈なのに、知っていたような気もする。不思議な気持ちだ。

「……だから、もうお前からそいつを取り上げたりしない」

「!……ありがとう」

ぶっきらぼうだが、アルの言葉の意味に気付き、レインはお礼を言った。

「………」

またすぐそっぽを向いてしまったが。

『レイン!』

ティアはレインの膝から降り、裾をぐいぐいと引っ張る。

どうやら、そろそろ行こうということだろうが、レインはちらっとアルへと視線を移す。

足を怪我してるわけではないので、歩くのに支障は無いだろうが、無理は禁物だ。

「……問題ない」

レインの視線の意味が分かったのか、アルはそれだけ言って立ち上がる。

「そろそろ、あいつも来る頃だろうしな」

「あいつ?誰?」

「ゼイル。……僕の弟で、相棒だ」

その一言で、アルと一緒にいた、銀色の龍を思い出す。

「私にとってのティアと、同じなんだね」

ゼイルという名のアルの相棒。銀色の鱗を持った、とても綺麗な龍。

「弟」と言った時のアルの顔は、レインを見るレオンの眼差しと良く似ている。

親のような、暖かい眼差し。

「そうだ!アルは龍の谷から来たんなら、龍の谷がどこにあるのかを知ってるんでしょう?」

「そうだな」

「私とレインを、龍の谷まで連れていってくれないかな?案内してくれるだけでも良いんだけど」

「………はぁ」

何故かため息を吐かれた。
「何でため息吐いたの?」

「断るだけ無駄だと思っただけだ。お前は龍の爪にしがみついてでも追ってくる奴だからな。ちびの癖に、どこからあんな力が湧いたのか、今でも不思議だ」

「ちっ―!…………ちびじゃないもん」

他の言葉は、まぁ仕方ないと片付けたが「ちび」呼ばわりはカチンときた。

レインは元々背が小さい方で、三年たってもそこまで伸びていないので、割りと背の低さを気にしていた。

「私だってその気になれば………二、いや三十メートルは伸びるんだからね!今はまだ成長期なんだから!」

「巨人か」

アルの呆れたツッコミに、レインはうっと黙りこむ。

『キョジン!』

ティアは新しい言葉を覚えた。

「…………」

「…………」

何故か気まずい空気が流れ、レインとアルは口をつぐんだ。

「………行くぞ」

「………うん」

『ギョイ!』

二人と一匹は歩き出した。


獣道から、普通の道へと出ると、レイン達は真っ直ぐ歩いていく。

すると、段々登り坂になり、前の坂よりも急だ。

「ここから先は山に入る。山の頂上でゼイルが待っている筈だ。……因みに、ちょっとでも道から外れると、崖になっているからな、そいつはまだ飛べないだろうから、見ててやれ」

視線でティアを指すと、レインは頷いた。

「分かった。……私も気を付けないと」

「お前は大丈夫だろ。しぶとそうだし」

「確かに。丈夫さは私の取り柄だし!」

嫌味を言われたとは思ってないのか、自信満々に返され、逆にどうすればいいのか分からなかった。