その夜、お世話になるお礼にとレインは料理を作り、ノノンにふるまった。
ノノンは嬉しそうにご飯を平らげ、匂いに釣られて起きたティアも、レインの料理を食べ漁っていた。
「美味しいね!ティアちゃん!」
『ピギィ!』
パクっとティアはリンゴを食べる。
生まれて最初に食べたとも言えるので、どうやらお気に入りのようだ。
「食材使わせてくれてありがとう」
空のお皿を片付けながら言うと、ノノンは自分の食器を持ち上げる。
「どういたしまして!お姉さんの料理とっても美味しかったよ。何だか懐かしい味っていうか、お母さん?の料理みたいだった」
母の料理をノノンは食べたことが無い。だが、レインの料理からは懐かしさや温かさを感じた。
「私の料理はね、師匠と姉さんに教わったものなんだ」
レインも幼い頃、姉の料理から母親の影を感じた。それは、自分を拾ったレオンの料理からも感じた。
「……お母さんが生きてたら、こういう料理、作ってくれてたのかな?」
食器を洗いながら、ノノンはポツリと呟く。
「お姉さんの、お父さんとお母さんは?」
「……二人ともいないの。私には姉さんしかいなかった」
生きているのか、死んでいるのか分からない。ティアナは何一つ語らないままいなくなってしまった。だから、二人のことを教えてくれる人はいない。
恩師であるレオンただ一人を除いて。
「お姉さんのお姉さんってどんな人?」
「ティアナ姉さんは、とても綺麗な人だった。緑色の髪を腰まで伸ばして、顔はもう殆ど思い出せないけど、優しくていつも微笑んでいた人だった」
レインはあえて、姉が魔女である話をしなかった。それは、ノノンの反応を恐れていたからではなく、レインにとっては、姉は姉でしかないからだ。
ただの、人間と変わらない綺麗で大好きだった姉。
レインにとっては、それが真実。
「そのティアナってお姉さんと、お姉さんはとても似ているのね!」
「え?」
今の話の中に、姉と似ていると言えるところがあっただろうかと、首を傾げる。
「だって、ティアナさんは優しくて温かい人なんでしょう?お姉さんとそっくりだもん」
「……私が?」
自分を指差し、困惑した視線を送ると、ノノンは力強く頷く。
「お姉さんは、優しくて温かいよ。それに、笑顔がとっても素敵なの!」
まるで姉が出来たようだと、ノノンは笑った。
「今日会ったばかりだけど、私、お姉さん好きだよ!その赤い髪もリンゴみたいでもっと好き!」
「!」
ノノンの言葉に、レインの瞳に涙が溜まる。
―貴女の髪は宝石の色。リンゴのように可愛らしい色よ。誇りを持ちなさい―
かつて姉が言ってくれた言葉を思い出し、ノノンの言葉と重なる。
身内以外で自分を認めてくれる人、好きだといってくれる人がいたことが、こんなにも嬉しい。
今日会ったばかりの他人だと言うのに、ノノンはレインを好きだと言ってくれた。
「…………っ………う……ひっく………」
「お姉さん?……どうしたの?どこか痛いの?」
涙が流れ、それを乱暴に拭いながらも、止まることを知らないようにポタリと落ちる。
ノノンは困ったようにオロオロとしていた。
「……ううん。何でもないよ…………ありがとう。ノノン」
レインはノノンの小さい体を抱き締めた。
「……お姉さん。一緒に寝よう?」
「良いの?」
「うん!」
顔を上げたレインにノノンは笑い、レインも笑った。
『ピギィ!』
「はいはい。ティアちゃんもね!」
明け方。
レインはノノンを起こさないようにベットから出ると、リュックから薬草を取り出し煎じる。
煎じ方はレオンから教わったが、解熱薬と痛み止め、傷薬しか、材料の都合上作れない。
旅の薬売りから薬を買ってくれるかは分からないが、揃えられるだけ揃える。
太陽が昇りきる前に何とか作業を終え、透明な小瓶に詰める。
これで準備は出来た。後は、ノノンが起きる前に朝御飯の支度をしておこう。
昨日もこの家の材料を使わせてもらったし、今日は狩りをしてこようかと思う。
リュックに引っ掻けてある弓矢を取り、そっと小屋を出ようとした―が、何が足に絡み付いている。
レインはため息を吐いてから、自分の足に抱き付いているティアを見下ろす。
「おはようティア。……ちょっと狩りをしてくるから、ノノンとお留守番しててね」
『ピギィ!』
やだやだと言ったように首を振ると、レインは困ったように眉を下げる。
「大丈夫!すぐ戻ってくるから。ノノンのこと、見ててあげて?」
『ピギィ………』
諭すように優しく言い、しゃがんで頭を撫でる。
まだ小さい白い角をツンと突っつくと、くすぐったそうにごろりと転がった。
「ふふっ。じゃあ、行ってきます」
なるべく音をたてないように、小屋の扉を開けて閉める。
静かな村の中を、フードを深く被りながら、レインは森へ歩いて行った。
ヒュンッと風を切る音が聞こえる。
狙った獲物へと矢を放ち、撃ち落とす。
本当は兎でも良かったのだが、鳥の肉の方が食べやすいだろうと思った。
レインは撃ち落とした鳥の足を縛って、肩に担ぐ。
「……大地は、時に優しく時に厳しい……だから、自然に感謝する」
自然があり大地があり、人は生きていくことが出来る。大地を怒らせてしまえば、人は生きられない。
だから、感謝をしなければ。当たり前だと思ってはいけない。そう、レオンは言い聞かせてきた。
そして、それは神龍も同じなのだと。
神龍が守るのが当たり前だと人は思っている。だが、神龍は国を守るための道具じゃない。
どんなに神に等しい力を持っていようと、神龍もまたこの大地で生きている「生き物」なのだと。
(私はいつか、この国の真実を知りたい)
神龍が守り、人間が治めるこの国。歴史の奥に沈んでしまったであろう真実。
それを、レインは知りたい。きっとそれを知ることは、姉の死の真相を知ることだと、何となく思った。
レインの知らぬところで、この国の穢れは広がっていく。
だがそれに、まだ誰も気付かない。
(……ノノンがそろそろ起きちゃうかな。急いで帰らないと)
レインは歩く速度を速めて、来た道を戻って行った。
レインは朝食を食べ終わると、ノノンに村を案内してもらうことになった。
『ピギィ!』
ティアはリュックの中に入ってしまい、そこから出ようとしない。だが、置いていこうとすると鳴くので、リュックを背負ってティアも連れていく。
「ここでは、旅人が商品を売る時は、村長さんに許可を貰って、指定された場所で売る決まりだから、まずは村長さんの所に行こう!」
ノノンの案内で村長の元へ行くと、商いの許可を貰う。
当然、レインはフードを深く被っていたため、村長は怪しんだが、ノノンが上手く説明してくれたお陰で許可を得られた。
「旅の商人さんはね、ここで商いをしてるの。楽器弾いてる人も時々いるよ」
そう言いながら、ノノンはちらりとレインの首から懐へと繋がっている紐を見る。
「お姉さんのその紐、何?」
昨日から気になっていたのだが、聞くタイミングを逃していた。
レインはそっと懐にある横笛へと手を伸ばす。
服から出さずに、布越しにそれを握った。
「……私の、姉さんの形見」
姉が残した唯一のもの。
「そっか」
ノノンはそれ以上聞くことはしなかった。
「どうする?先に薬を売る?それとも、竜を見に行く?」
「先に売ってから、見に行こうかな。そろそろ人が集まる時間帯だろうし」
もう日は昇りきったし、先程からちらちらと人の出入りが見られる。
レインは指定された場所に、絨毯を敷いて薬を並べた。隣には、売るのを手伝うとノノンが立っている。
因みに、ティアは驚くくらい、静かにリュックの中に収まっていた。
恐らく、見ず知らずの人間が沢山いるので、警戒しているのだろう。
「いらっしゃいませ!お薬はいかがですか?」
「いらっしゃいませー!」
レインの真似をして、ノノンも声をかける。すると、年配の女性が寄ってきた。
「おはようおばさん!薬買って?」
「あらま。ノノンが商売してんのかい?」
「ううん、お姉さんのお手伝い!」
ノノンはレインを振り返る。
「なるほど。ま、ノノンがなついてるくらいだ。悪い人間では無いだろうさ。これは何の薬だい?」
「これは、痛み止めです。主に膝や腰の痛みを和らげるのに適しています」
小さな小瓶を指差した女性に、レインは説明をする。
「なるほどね。調度腰が痛くて参ってたんだよ。折角だから一つ貰おうかね。いくらだい?」
「ありがとうございます!お代はこちらでしたら、百ガロです」
「おや、随分安いじゃないか」
この国のお金は「ガロ」という。タダの次に安いのは一ガロだ。ガロより上が「一ポル」である。
※読者の方に分かりやすく言うなら、ガロは一円。ポルは一万円のことです。
薬と言えば高いという感じなので、女性は驚いていた。
「材料費がそもそもかかっていませんから」
殆どがここに来る前に、森で採れたものだから、高いお金を貰う意味はない。
せいぜい、作る手間賃くらいだ。
「良心的だねぇ。他の友達にも声かけとくよ!」
「ありがとうございます!」
「おばさん!ありがとう!」
機嫌良く去っていった女性を見てから、レインとノノンはお互いを見合い笑う。
最初の一歩は上々だ。
その後も、ノノンの声かけのお陰で、薬は見事完売した(主に年配の女性に売れた)ので、レインは絨毯をリュックにしまって、立ち上がる。
「……ティア?」
『ピギィ?』
小さく声をかけると、小さく鳴き声が返ってきた。
「これから、竜を見に行くよ」
『………ピギィ』
どこか不安そうな声で鳴くティアに、レインは心配になる。
「お姉さん、竜の小屋はこっちだよ!」
だが、ノノンに手を引かれ、レインは竜の小屋へと向かった。
その途中、広場を通ったが、何やら太い木の柱があり、先っぽには縄が結ばれていて、縄の先は網になっていた。
網の中には、丸太が沢山詰まっている。更にその下には、台座のようなものがあった。
白夜村でも同じものがあり、レインはそれが何なのかはすぐに分かった。
(あそこで、竜のお肉を焼くんだ)
お祝い事やお祭りの日に、村人が村の中心の広場を囲っているのを、レインは何度も見たことがある。
(……竜の……お肉)
昔はあんなに食べたいと思っていたのに、ティアを見付けてからは、そんな気持ちは吹き飛んだ。
今では、食べられてしまう竜が可哀想で、レインは目を反らす。
この世は、食べるか食べられるかだろう。それが世界の決まりとも言えるし、それを変えることなど出来ないと分かっている。
けれども、やはりレインは心が痛かった。
この中に、生きられることに感謝しながら、命をいただいてる人間は、一体何人いるのだろうか?
(竜は家畜と同じ。けれども、神龍様は神様と同じ)
この違いは、何なのだろう?
空を飛べない、口から火を吐けない、言葉を理解できない。それなら、食べてしまおう。
そういう事なんだろうか?
(……今ここであれこれ考えても、答えはでない)
レインはそう思うと、ノノンの後を着いていく。
その先にある真実に打ちのめされることも知らずに、レインは歩くのだった。
「ここが竜の小屋だよ」
ノノンに案内されたのは、とても大きな木で出来た建物だ。
小屋というよりは、別荘のような感じだなと思うと、ノノンは構わず扉を開ける。
「ここには、大人の竜がオスメス合わせて六匹いるの」
小屋の中へ入ると、レインは顔をしかめた。
というのも、変な臭いがそこら辺に充満しているからだ。
(何だろう?この変な臭い)
鼻にツンとくるような変な臭いで、今まで嗅いだことが無い。
「ノノン。この臭い何?」
「竜水(りゅうすい)の臭いだよ。竜のご飯で飲み物なんだって」
ノノンが指差した方向には、大きな樽と、バケツが置かれていた。
「竜水……」
「あ、ほら!あそこにいるのが竜だよ!」
ノノンに言われ、檻がいくつもある部屋を見る。
檻の向こうには、確かにティアと同じような姿をした生き物がいた。
近付いてみると、とても大きい。
だが、何かが変だと思った。鱗も鋭い牙と爪も龍と変わらないというのに、その目には生気を感じない。
灰色に濁った瞳と、灰色の鱗。ティアや昔見た龍のように輝くこともなく、置物のようにジッとしている。
レインは竜を観察していて、あることに気付いた。
(竜の背中に、二つの出っぱりがある)
まるで、何かを切り取られたような跡だ。
(あの位置は、翼が生えているところの筈。……どうして?)
レインの中で、嫌な考えが沸き上がってくる。だが、確信はない。
「ねぇ、竜水を見せてもらってもいい?」
「いいよ。私のじゃないし」
一応、ここの村人であるノノンに許可を取り、レインは竜水の入った樽を覗きこんだ。
樽の中には、灰色の水が詰まっている。
指で掬ってみると、ハチミツのようにトロリとしていた。
鼻に近付けて臭いを嗅ぐと、色んな薬草の臭いがする。
特に鼻にくるのは、酸っぱい臭いだ。
「これ、薬草を細かく潰して、水に混ぜたものだ」
水に色が付いてるのは、その薬草のせいだろう。
「使ってる薬草が分かればいいんだけど」
「お父さんの仕事場に、何か草が沢山置いてあるよ?見に行く?」
「でも、ノノンのお父さんは仕事場に入れてくれないんだよね?」
レインの言葉に、ノノンはフフンと胸を張った。
「入れてくれないなら、忍び込めばいいだけだよ!」
「……ノノンが叱られちゃうよ?」
「大丈夫!もう何度も叱られてるから」
何故か自慢気なノノンに、レインは苦笑いする。
だが、人様の仕事事情に首を突っ込むのは良くないが、レインはどうしても知りたかった。
もしかしたら、竜達が虚ろなのはあの水が原因ではないかと。
「じゃ!仕事場に行こう!」
「うん……あ!」
レインはふと、ティアはまだ竜を見れていないんじゃ無いかと思い、檻の前に着てリュックを前に向ける。
しかし、ティアは無反応だった。
「?」
不思議に思いながら、ティアを出そうと手を入れると、ティアは怯えたようにリュックの隅へと体を縮こませる。
「ティア?………!」
もしかしてと、レインは指先の臭いを嗅いだ。先程の竜水の臭いがまだ付いている。
ティアはこの臭いを嫌がっているのだ。
(この怯え方……一体)
レインはリュックを背負い、ポタンを閉じると、ノノンを見る。
「……行こう」
ノノンは黙って頷くと、先へと歩いて行った。
「ここがお父さんの仕事場。……そこに木があるでしょう?あそこを上って、二階の窓から入るの。風を通すために、いつも開いてるから」
見上げると、丁度窓に寄り添うように、大きな木が生えている。
「まずは私が行くね!」
そう言い終わるや否や、ノノンは器用に木を上ると、窓へと飛び移る。
レインも木へと近付く―がその時、扉が開いた。
「!」
レインは咄嗟に木の後ろに隠れる。
濃い髭を生やした男が、何やらモゾモゾと動いている大きな袋を背負って去っていった。
あの人が、ノノンのお父さんだろうか?
「お姉さん?」
ノノンが控え目に声をかけると、ハッとしてレインは木を上って窓へと飛び移る。
すべて木で出来ているため、床に降りるとギシッと軋む音がした。
「さっき、ノノンのお父さんらしき人が、大きな袋を持って出ていったよ?」
「……もしかしたら、赤ちゃんの儀式をしに行ったのかも」
昨日も聞いた儀式という言葉に、何故かレインの心に不安が募っていく。
嫌な予感がするのだ。
「とにかく、下へ降りよう?」
ノノンが言うと、レインは黙って頷く。
階段を降りて下へ行くと、そこには大きな机と棚があった。
机の上には、正六角形にカットされた細い板が、いくつも組合わっており、まるで蜂の巣のようだ。
一つの六角形には綿が敷かれており、割れた卵が置いてある。
勿論、数は少ないが、割れてないのもあった。
「……これが………竜の卵」
形はティアの卵と同じだが、大きさはティアの時よりも大きい。
それに、色はくすんだ灰色をしている。
「お姉さん!薬草ここにあったよ!」
レインが卵を眺めていた間、ノノンは棚を漁っていた。
ノノンの側へ寄り、薬草を眺める。
「!……これは」
レインも見たことがない、灰色の薬草が沢山詰まっていた。灰色の薬草をつまみ、臭いを嗅ぐと、あの酸っぱい臭いがした。
恐らく、竜水の大元だろう。
「これは……何?」
「シジナ草だよ」
「「!」」
答えが返ってくるとは思わず、レインとノノンは肩を跳ねらせた。
振り返ると、先程出ていったノノンの父親が立っている。
「あの、勝手に入って申し訳ありません」
レインが頭を下げると、父親は顔の前で手を振る。
「いやいや。どうせ家のバカ娘が連れ込んだんでしょう」
バカ娘と言われ、ノノンは頬を膨らます。
「いえ。私がお願いしたんです。……本当にすみませんでした」
元々レインが頼んだことだ。ノノンは悪くない。
「君は、まだ若いのにしっかりしとるようだな。竜に興味があるのかい?」
「……はい。私は竜を見たことがありませんでしたし。薬剤師をしておりますので、薬草には目がなくて」
「はははっ!若いのに感心なことだ。そうだ、もうすぐこいつらも生まれるし、君なら特別に見せてあげてもいいが、見るかい?」
竜の誕生を見られる。そう聞いて、レインは迷わず頷いた。
「お願いします」
「お父さん!私も私も!」
「……仕方ないな。いいだろう……だが、まだ世話をさせるわけにはいかんからな。見るだけだぞ?」
父親の言葉に、ノノンはまた頬を膨らましながらも、大人しく頷いた。
暫く卵の前で、三人はジッとしていた。
父親が来たせいなのか、ティアは動かない。
「さ、生まれるぞ」
その言葉と共に、卵はグラグラと動きだし、一斉に割れる。
ティアの時は随分時間がかかったが、竜の子供達はとても早かった。
『ギャン!』
『ギャォーン』
ティアの鳴き声とはまた違う。何だか掠れた声だ。
レインの目の前の卵が割れ、竜がピョンと顔を出した。
「……!!」
「どうだ?可愛いだろ」
レインは目を見開いていることしか出来なかった。何故なら、赤ん坊はティアと全く同じ姿で生まれたのだから。
大きさは違えど、ティアと同じような姿―つまり、翼の生えた龍。
(どういうこと?この子達、皆翼がある)
声もなく見つめているレインを尻目に、父親は持っていた袋の中に赤ん坊を詰めていった。
「!あの―」
「これから儀式の間に連れていくんだ。残念ながら、見せられるのはここまでだな。出て行ってくれ。ノノン、お前も家に帰りなさい」
それだけ言うと、父親はドアを開けて出ていく。
レインは、足がカタカタと震え、その場に膝をついた。
(どうして?……赤ん坊の竜は龍なの?)
龍と竜は同じなのだろうか?もしそうなら、何故翼が無くなったのだろうか?
大人になったら無くなるのだろうか?
様々な疑問が沸き上がり、レインは体を抱き締めて震える。
ふと、恐ろしい考えがよぎったのだ。
『ピギィ?』
「お姉さん、大丈夫?」
こちらを気遣うティアとノノン。
レインはリュックを開けて、ティアを覗きこんだ。
「……ティア」
『ピギィ!』
抱き上げると、心が落ち着いていく。
(…………確かめなきゃ)
ノノンの父親を追い掛けなければ、儀式の間という所に行かなければ。
「……ノノン。儀式の間に、案内して?」
「……分かった!」