それから、この空間には時計の針の音だけが響いていた。父は私が来る直前まで美知子さんと談笑していたというのに、私が来てからは口を開かなくなったのだ。

私は何かよからぬことを言われるのではないかと思った。そうでなければ、この場に美知子さんが居るはずがないから。


「…話をしようか、雅」


静寂を打ち破ったのは、やはり父だった。
手に持っていたカップを置くと、隅に座る私へと体ごと向き直る。

父はドアの横で佇んでいる伊尾に退出を命じると、ソファから立ち上がり、窓辺へと行った。

話とは何だろう。よくないことだとは分かっているけれど、それが具体的にどんなことなのかは、馬鹿な私には思いつかなかった。

父は私へと視線を移すと、ゆっくりと口を開いた。


「お前を、西園寺グループ会長のお孫さんに嫁がせることが決まった」


「……え?」


一瞬、何を言われたのか理解できなかった。理解したくもなかった。

けれど、それは。いつか、もしかしたら…と、心のどこかで予期していたことでもある。