「――雅様がご到着されました」


屋敷を囲う門をくぐり、さらにまた別の門をくぐった私は、本家の使用人を束ねている執事長に父らが居る部屋へと案内された。

豪奢な家具が並ぶ部屋の中央には、ティーカップを片手に微笑む父が居た。私の姿を見ると、心底嬉しそうな顔をして、手招きをしてくる。


「よく来たね、雅。さあこっちにおいで」


私は頷いていいのか迷った。なぜなら、父の隣には本妻である美知子さんが居たからだ。

彼女は私がここを訪れると、いつも蔑むような目で見てくる。憎くてしょうがないとでも言いたげなのだ。


「雅?」


美知子さんの視線が気になって前に進めずにいる私へと、父が心配そうに声を掛けてくる。

私は控えめに頷き、父が座る長ソファの端に腰を下ろした。

目が回るくらいに広い部屋だと言うのに、窮屈に感じるのは何故なのだろう。

考えても、考えても、息がしづらくて、答えは出てこなかった。