「…出迎えご苦労様」


私は息が詰まりそうになるのを堪え、ぎこちない笑みを浮かべながら、彼らの前を歩いた。

私のことをお嬢様と呼んで迎える彼らは、その仮面の裏で何を思っているのだろう。

本家から追い出されている、可哀想な妾の子?

たったひとりの使用人とアパート暮らしをしている、惨めなお嬢様?


「雅さま」


嫌なことばかり考えてしまう私へと、優しい声が降る。
振り返れば、私の少し後ろを歩く伊尾が、この上ない優しい微笑みを飾りながら、私のことを見つめていた。


「なに? …伊尾」


胸が、大きく鳴った。
伊尾はほんのりと唇を横に引き結ぶと、ゆっくりとした足取りで私の目の前で膝をつく。
執事の象徴である黒い燕尾服が、柔らかな風に揺れた。


「…お傍に、居ります。私が、雅さまのお傍に」


その言葉とともに、柔らかくて温かな感触が、私の手の甲へと贈られた。
震える私の手に一瞬で熱を駆け巡らせたそれは、忠誠を誓う口づけ。


「……いお」


神様、どうかお願いします。

いつだって私を支えた彼だけは、どうか。

どうか、彼だけは私から奪わないで。

地位も名声もお金も要らない。

欲しいのは、彼だけ。