雨の降る寒い日だった。うちの愛犬トトが死んだ。みんなトトのねている小さなクッションのまわりで泣いている。パパもママも、もちろん私も、、、
「トト、目を開けてよ、、」ママが言った。
「トト、あした晴れたら散歩に行こうって約束したじゃないか、、」パパも目を真っ赤にしている。
可愛い犬だった。
ヨークシャーテリアで、2キロ位しかない小さくて愛嬌のある犬だ。私が小学校1年のときに、パパが誕生プレゼントに買ってくれた。
人間で言うと45歳くらいなのに、突然こんなことになるなんて、、お医者さんは、心臓発作みたいなものでしょうと言っていた。でもいきなり死んじゃうなんて、、
つらいときもうれしいときもいつもトトと一緒だったのに・・彼氏にふられたときや友達とけんかしたとき、トトは私の愚痴を尻尾を振りながらニコニコして聞いてくれたっけ。
その夜わたしはいつも抱いて寝ていたトトのいない寂しさでなかなか寝付けなかった。明日は中学校のテストだから早く寝なくちゃいけないのに、頭のなかでは元気なトトとの思い出がぐるぐる回っていた。そのうち頭痛と耳鳴りが始まり、ようやく寝付いたのは夜明け近くだった。
次の日、事件は起こった!朝起きて私は自分の手を見ていた。毛むくじゃらの手を。これは何!?
どうして私の手は毛むくじゃらなの?
まだ頭痛の残っている頭で必死に考えてもわからない。そうだ。これは夢かも、、もうちょっとだけ眠れば目が覚めるわ、きっと、、
しばらくの間目を閉じてみたが、やはり手は毛むくじゃらのままだ。おそるおそる毛を引っ張ってみた。
痛い!!
げ!これって、現実なの?
いやよ!毛むくじゃらの手なんて!いったいどうやってミッチー(彼氏)と手をつなげばいいの?ハンバーガーだって毛が入っちゃうから思いっきりかぶりつけないし・・
そこまで考えてはたと思った。
これって、まさか手だけじゃないんじゃ・・・わたしは急いでベッドの上に起き上がり部屋の壁にかけた鏡のところに行こうとした。そのとたん、私の体はベッドの上から床に転がり落ちていた。
「痛い~~!!!」思いっきり叫んだつもりだったのに、口からでたのは「うううう~。」といううめき声だけ。わたしはわけがわからなくなり、狂ったように鏡のところまで走っていった。
でも、どういうわけか鏡が見えない。ていうか、背がとどかないのだ。
ええ~!これっていったいどういうこと??
そのとき自分の横に勉強机があるのが目に入った。私は急いでその机の上に椅子を踏み台にしてよじ登った。
そして、鏡をのぞきこんだ。
「ぎゃあああああ~~~~~!!!(うわおんわおんんん~~!!!)」
次の瞬間、私は机から転げ落ちて床でしこたま頭を打ち、気を失ってしまった。
部屋のドアをたたく音で目が覚めた。
「なっちゃん、なっちゃん、まだ寝てるの?咲ちゃん迎えに来てるわよ。」
あ~~!寝坊しちゃった!早くしたくしなくちゃ・・
・・・って、私、毛むくじゃらだった・・
おまけにちっこいし・・声が変だし・・
ちょっと!これって、どう見ても犬のトトじゃん!
トト!!会いたかったよ~!!。。。
って、馬鹿なこと言ってる場合ではない。とりあえず、どうにかしなくちゃ。
「なっちゃん!なっちゃん!早くしなさい!」ママはドアをドンドンたたいてるし。
う~~、パニックになりそう~~~
あ、そうだ!!手紙だ!
私は急いで机の上にかけあがってボールペンを持った。でもちっこい犬の身にはその重たいこと。ようやっと両手でボールペンをかかえて、紙によたよた字を書いた。字というかまるでミミズのようなはちゃめちゃな文字だった。でも何とか読める。
よし、これをドアの隙間からそ~っとだしてと・・
「まあ!なっちゃん、これ何?汚い字。・・・とにかくここをあけなさい!!」ママこそパニくっていた。
きっと娘が登校拒否にでもなったと思ったのだろう。でも、それでもいいや。いや、そのほうが都合がいいかも。しばらくこうして自分の部屋にこもっとけば、だれにも姿を見られなくてすむ。その間に犬からもどる良い方法が何か見つかるかもしれない。
部屋の前でわめいていたママは、そのうちあきらめたらしく、ぶつぶつ言いながら下に下りていった。このメモをもって・・
『が・つ・こ・う・い・か・な・い』
咲、ごめんね。一緒に行けなくて・・しばらくみんなの前に姿を出せないけど、私のこと覚えていてよ・・犬になっちゃたのよ・・わたし・・
そのとき、なんだかすごい悲しくなって涙が一粒ほおを流れた。(正確には毛がじゃまして流れてないけど・・)そして、そのあとは号泣だった・・
わお~ん、わお~~ん、うううう~~~~・・・・
昼ごろになると、さらに大変なことが持ち上がった。生理的欲求。つまり、トイレとお腹がへったってこと。トイレの方は、トトのために前から用意してたトイレシートでなんとかすませた。といってもトトはオスなので、おっかなびっくりだったけど・・
・・ふふ、ミッチーもこんな風にしてるのかしら?やだ・・はずかしい・・足を上げながら思った・・ちょっとおかしかった。
でも、お腹がへるのだけは一人(一匹?)じゃどうにもならない。あ、確かポテトの袋がゴミ箱にある。必死でゴミ箱のふちをもって立ち上がり、中を見ようとした。ゴロンゴロン、ゴミ箱と一緒にまたひっくり返った。今度はうまくころんだので気は失わなかったけど、ポテトの袋は空だった・・
しょうがない・・ママを呼ぼう。
部屋のドアに何度も体当たりした。痛かったけど、もうお腹かペコペコだ。ママが階段を上がってくる。そうだ、お腹の鳴る音を出そう。
きゅうう~~~~ん・・ごろごろおんん~~
「もう!お腹すいてるなら下に降りてくれば良いのに・・ここに置いとくわよ!」ママはお昼ご飯をもって上がってくれていたのだ。サンキュウママ!でもママは私が顔を見せないので機嫌が悪かった。ごはんののったお盆をどんとドアの前におくと、ドスドス足音をたてて降りていった。
あ~待って、ママ~!私、このドアあけられないんだよお~~・・