ミンミンミン。

セミの鳴き声だけが誰もいない夕方の教室に響く。

放課後になり、ハルは見守りたいけど今日は店番があるからと言って帰ってしまった。

当の本人は自分の机に座って何が考え込んでる。

これは声をかけるべき?

何も出来ずにただ自分の席で座って待ってる。

〝ガタッ 〟

長谷川くんが席を立った。

いよいよだっ…!

私もつられて席を立つ。

「あの…さ、言いにくいんだけど。」

「…何?」

「…た、高野って好きな人とかいんの?」

き、キター!

「い、いるよ!」

勢い余って声が裏返ってしまった。

「そっか、いる、よな」

「…それが…何?」

「お、俺さ…」

ずっと俯いていた長谷川くんがこっちを見る。

…待って、この感じ、やだ。

私が聞きたくない言葉を言われそうな気がする。

「山浦のことが好きなんだ」

ーーーーーーーーーーーーーー。

ほらね、聞きたくなかった。

こんな時、なんて言えばいい?

お似合いじゃん!とか?

知らなかったよ!とか?

私には言えない。

「………そっか………」

これが精一杯だった。

「それでさ、山浦って好きなやついんの?」

「っ!」

多分あからさまに私が困った顔をしたからだろう。

彼が悲しい顔をした。

「だよな、高野も好きなやついるもんな、山浦にだっているよな」

「う…ん…」

何も、言えない。

ハルに好きな人がいるなんてこと聞いたことなかったけど。

いないって言えば彼は喜ぶのだろう。

でも。私には言えない。

「それでさ、高野に協力してほしい…なんて思ってるんだけど」

「…へ」

「山浦のこと、よく知ってるだろ?」

知ってたら協力するのが当たり前なのか。

私は長谷川くんが初恋だからわからない。

…保育園に行ってた頃に好きだった人はいたけどあんなのカウントに入らない。

協力なんしたくない。

でも、しなくて嫌われたくもない。

「…分かった」

蚊の鳴くような声でやっと声を絞り出した。

だめだ、ここにいたら、泣いてしまう。

「話はそれだけ?私、犬の散歩頼まれてたの忘れてた!ごめんね、帰る、また月曜日ね!」

荷物を持って急いで駆け出した。

下を向くと、涙が出そう。

「それでさぁ〜…」

下駄箱の方から人の声がする。

どうしよう、見られたくない。

そう思って私は中庭へ入った。

「ふぇ…泣きたくなんか…ない…のに…」

どうして、どうして。

「なんで…ハル…なのっ…」

ほかの人なら諦めがついたかもしれない。

あまり知らない人なら尚更。

でも。ハルは近すぎる。

ハルになんて勝てるわけない。

私は壁にへたり込み、声を殺して泣いた。