さっきのはなんだったんだろう。

なんだかあっという間の出来事だった気がする。

あれから、吉沢くんはすぐに中杉くんの腕をすり抜けて教室を出ていってしまった。

私はヨーヨーの店番中。

相変わらず、私のヨーヨーは人気ないなぁ…

はぁ。とため息をつく。

サキちゃんのヨーヨーが全てなくなったから、少しヨーヨー売り場から人が引いた。

「ん。」

目の前に人影が。

いっけない、ぼーっとしてた…!

「ごめんなさい、お待たせしました…?」

そこにはさっき出ていったはずの吉沢くんが。

「よ、吉沢くん…?」

名前を呼ぶと驚いたような顔をした。

あ…。

目があった。

吉沢くんは前髪が少し長いけど、前髪の間から覗く目は大きくて綺麗な形をしている。

鼻筋も通っていて、色が白い。

そして中杉くんに負けてない、間違いなくイケメンの部類に入る。

中杉くんが王子なら吉沢くんは紳士って感じ。

タイプは違うけど、二人とも顔立ちがいい。

吉沢くんは純粋な色の髪をしている。

まるで、夜の海のような色。


じぃっと見ていると、少し照れたような顔を見せ、100円を差し出してきた。

「あ、ヨーヨーする?お金、大丈夫だよ!」

ほとんど私のヨーヨーばっかりだったから申し訳なさ過ぎてお金は断った。

でも、頑なに100円を差し出してくるから仕方ない…。。。

この頑なさ、ちょっと生物くんに似てるかも…。

ちょっと生物くんを思い出して胸が痛んだけど。

この気持ちに気付かないふりをして釣具を2本、渡した。

きょとんとした顔でこちらを見る。

「おまけ」

せめて、ほかの子のヨーヨーを釣ってほしい。

私のだけは、ほんとうに申し訳ないから釣らないで…!!!!!


でも、私の願いは叶わず。

吉沢くんは迷いなく、2本の釣具で私のヨーヨーを2つ、取った。

「すごい!2個、取れたね!で、でも、柄が変だから他のに変えてあげる!えと、ほら、この水玉柄とかいいと思うの!あとは、この迷彩柄とか、ことり柄とか!!!!!」

なんとか変えてほしくて粘った。

でも。

ヨーヨーを握りしめたまま、離そうとしない。

「これがいい。」

ボソッと呟いた吉沢くん。

「え?」

「この、柄がいい。」

そう言い放つと。

教室から出ていってしまった。



「待って…!!!!!」



私は気づいてしまった。

あの声。

あの優しさ。

あの落ち着く感じ。

間違いない。

「見つけた…。生物くん…」