颯汰が私を見る。
私の前でしか見せたことのない、切なげな表情。
「優梨、前までは何に関しても“どうでもいい”って言って諦めてただろ?
俺も同じだよ。
俺の場合は今も。」
今も……?
颯汰は今だって、どうでもいいって思って諦めてるってこと?
「それって、何に対して?」
いつも笑顔で、明るい颯汰にはそんなこと一切感じられなかった。
「目の前にある現実から。」
颯汰は多分、濁すつもりなんてなかったと思う。
それが本心だったと思う。
だけど私には、颯汰の言っている“目の前にある現実”が何を指しているのかわからなくて………
その時、右手が何かに包まれる感触がした。
それは颯汰の大きい手で、理解した瞬間に心拍数が上がって顔もあつくなる。
だけど嫌じゃない。
振り払おうとも思わない。
ここまできたらもう、この気持ちがなんなのか気づいてしまったんだ。
私は、颯汰が好きなんだと。
気づいてしまえばもう隠せない、この感情。
私も少し握り返す。
颯汰の手は私なんかより大きくて、だけど………
今の颯汰自身はいつもより小さく見えたんだ。