「わっ!」


ジルが裏庭で木苺を摘んでいると、突如耳もとで咆哮がした。


目を真ん丸にして振り返れば、アイスブルーの瞳を細めてクロウが笑いをかみ殺していた。


「ジルの驚いた顔、何度見てもカワイイな」


「もうっ、からかわないでよ!」


拳を振り上げるジルを、クロウは涼しげな笑みで交わした。後ずさりした反動で、金色のしっぽが緩やかに揺れる。


獣人であるクロウは、狼のしっぽと耳を持つ。口からは鋭利な牙が見え、両手足の爪は凶器になるほど鋭い。





「……あっ!」


クロウに向かってジタバタしているうちに、木苺を入れた籠がジルの腕を離れてしまった。


籠から飛び出したみずみずしい紅色の木苺が、パラパラと宙に散らばる。


ジルが慌てふためいていると、クロウの手が瞬時に宙に浮いた全ての木苺をさらった。そして、反対の手で受け止めた籠の中に、器用に戻す。


人間よりも瞬発力の高い獣人だからこそ、なせる業だ。


「危ないところだったな」


そう言って、クロウはジルに微笑を向けてきた。