思いがけない打診に、ジルは一瞬戸惑った。だが、すぐにエドガーが言いたいことを理解し、ゆっくりと頷いた。


「……私が、代わりに投獄されるということですね。ランバルドさんが解放されるのであれば、もちろんお受けします」


捨て子だったジルを、実の娘のように大切に育ててくれたランバルド。彼を救うことが出来るのなら、命すら惜しくない。それにたとえ獄中だろうと、クロウと一緒に過ごせるのであればこれ以上の好条件などない。


だがエドガーはスッと目を細め、不快そうに首を傾げた。その些細な仕草すら場違いなほどに華麗で、背筋をぞくりと冷たいものが這う。


「投獄するつもりはない。お前は近従として、俺の傍に置く」





思いがけないエドガーの言葉に、ジルは再び言葉を失った。


「近従……ですか?」


ジルは剣術に秀でているわけではないし、もちろん武術もたしなんだことがない。教養もないし、化粧すら施したことのない田舎育ちの冴えない娘だから、美しさも持ち合わせていない。


「なぜ……私が……」


「その理由を伝えるつもりはない。お前は俺の近従になってあの男を救うか、それともこのまま見捨てるか、どちらかを選ぶだけだ」


まるで魂が籠っていないかのように、エドガーの声は淡々としていた。


(本当に、氷のような人だわ……)


あたたかくて優しい獣人たちとは真逆の存在だ。それゆえに、獣人とは反りが合わないのだろう。彼がこの先この国を統治したら、ますます獣人を迫害するに違いない。そんな人間の傍に四六時中いなければならないとと思うとぞっとする。


ジルの答えを、エドガーは瞳を伏せて待っていた。


(出来れば、二度と会いたくない)


だが、ランバルドを見捨てるという選択肢はジルにはなかった。それにこのまま城に残れば、隙を見つけて投獄されたままのクロウを救い出せるかもしれない。


クロウを逃がせたら、エレナとランバルド、それにクロウの恋人のフローラと一緒に遠くに逃げよう。この獣人嫌いの王子の魔の手が届かない、遠い異国の地へ――。