ジルは、どうにか声を振り絞った。


「殿下が獣人のことを快く思われていないのは、存じております。けれども彼らは、普段はとても穏やかで優しい人達です。あの日クロウが人を襲ってしまったのも、ぶたれた私を助けようとしたからで、悪意はなかったんです……」


「普段など、どうでもいい。あの獣人はこの国の人間を襲い、怪我を負わせた。そんな危険生物を野放しにしておくわけにはいかない。投獄は当然のことだ」


淡々と、エドガーはジルの懇願を跳ねのけた。


ジルは、絨毯の上でぐっと拳を握り締める。


「ではどうか、ランバルドさんだけでも……。クロウが人を襲ったのは事実ですが、ランバルドさんには何の罪もありません」


「あの男は息子を連行する際、軍人に歯向かった。反逆罪に値する」


エドガーの抑揚のない声色には、物事の全てを押さえつけるような迫力がある。ジルの必至の想いなど、この冷徹な王子の耳をかすりもしないようだ。


ジルは唇を噛んだ。この氷山のように屈強で冷たい男の心を動かす術が、ジルには分からない。


すると、ひとときの間のあと、ふいにエドガーが口を開いた。


「だが……、父親の方だけは逃がしてやってもいい」





ジルは、目を瞬いた。


「本当……ですか?」


「ああ」


ダークブルーの瞳が、ジルに試すような視線を注いでいる。


「ただし、条件がある。代わりにお前がここに残れ」