―――……

無数の松明が、背後に迫っている。


幼いジルは裸足のまま、夢中で野道を駆けていた。


体中が汗だくで、息は既に切れ切れである。


『あそこにいる! 獣人の子どもだ!』


松明の一つが揺れ、ジルに向けて声を張り上げた。


『獣人の子どもを捕らえろ! この国の災いだ!』


『ハァッ、ハァッ……!』


怖くて怖くて仕方がない。


苦しくて苦しくて、死んでしまいそうだ。


意識を手放しそうになりながらも、よろめく体をどうにか奮い立たせ、ジルは野道をがむしゃらに走った。


『いたぞっ!』


背後から響く声が一際大きく聞こえ、ジルは肩を竦ませる。


もう終わりだ、と覚悟を決めた時のことだった。


力の入らなくなった足がもつれ、ジルは勢い良く前へと倒れ込む。


目前には、底なし沼のように真っ暗で果てのない闇が広がっていた――……