『怒っているの?』


幼いジルが問えば、獣は低い唸り声を上げた。


『怖いの?』


そっと、殺気をみなぎらしている獣に手を伸ばす。


不思議とジルには、獣の脅えが手に取るように分かった。


そして、自分がこの獣に何をしてあげれるかも、本能的に知っていた。





獣の額に、自分の額をくっつける。


まもなくして、まるで清らかな水に洗い流されたかのように、獣の瞳から怒気が消えていった。


『ほら、ね。もう大丈夫』


ジルがにこっと無邪気に笑って見せると、獣は月の光に似た金色の瞳を見開いたのだった。