無鉄砲だ。とは昔からよく言われていた。
川に落ちた子犬を助けるために橋から飛び込んだり、風船を離して泣いてる女の子のために高い杉の木によじ登って風船をとってあげたりしていたのだから、周りからそう思われるのも無理はない。
たが、今回はさすがに自分でもやっちゃったなぁと思っている。
いくら大切な妹が誘拐されて、犯人から金を持って来いと言われたからといって何も一人で来ることはなかった。
頭に血が登ってしまい、気が付いたら警察や父の制止を振り切って一億が入った鞄をつかんで指定された倉庫まで全力疾走していた。
「お、お姉ちゃん⁉まさか一人できたの⁉」
犯人たちに囲まれて、椅子に縛られている妹が呆れた声を出した。
「いやぁ、何か気が付いたら体が勝手に…。てへっ」
「てへっ、じゃないよ!馬鹿なの⁉絶対一人じゃだめじゃん!もー、頭使ってよ頭!」
頭脳明晰な妹にド正論を突きつけられ苦笑いするしかない。私は体で、妹は頭で動くタイプなのは昔からだ。
その時、リーダーらしき犯人が拳銃を突きつけながら一歩前に出てきた。
「おい、お前こいつの姉か?一人で来るとは良い度胸だ。一億をこっちに渡しな」
拳銃を妹のこめかみにコツリと突き付け、左手を差し出してきた。
「渡したら妹は返してくれるんですよね?」
「もちろんだ。約束する」
ゆっくりと犯人に向かって歩いていく。
慎重に鞄を男に引き渡す。
次に妹に手を差し伸ばそうとした。
瞬間、
「ばぁーか」
そう言って男が引き金に力を入れた。
バン‼
銃声とともに吹っ飛んだのは妹の頭―――――
ではなく、銃口から煙が立ちこめる拳銃だった。
コンマ0.1秒。私の回し蹴りが拳銃を蹴り飛ばした。
「なっ…。お前、何しやがる!!」
突然の反撃に狼狽える犯人一味を横目に、私の瞳はすぅっと細くなった。
「ったく。大人しく妹を解放すれば命だけは助けてあげようかと思ったけと…。とんだゲス野郎共ね。まぁ、手加減の必要がなくなったからこっちとしては有難いけど」
指と首をボキボキならしながら近付く。
「あんた達さぁ、うちが金持ちだからこの子誘拐したんでしょ?でもね、金持ちの家ってやっぱり物騒なわけ。だから大概一家に一人用心棒がいるものなのよ」
近くに落ちていたビール瓶を拾う。
それを思い切り横の柱に叩きつけた。
妹の前に立って凶器と化した瓶を奴らに突き付ける。
「さぁ、相手してあげるわ。この子に指一本でも触れてみなさい。すぐに血祭りにあげるから!」
瓶の破片で妹が縛られている縄をぶちっと切った。その音を合図に大乱闘が始まった。
結果から先に言おう。30分後、私と妹以外、そこに立っているものはいなかった。
警察がくるのが分かっていたので、誰も死んでいない。気絶しているだけだ。
「さて、片付いたし、後することはただひとつ」
くるっと妹の方を見て頬笑む。
「警察が来る前に、全力で逃げてーーー‼」
「お姉ちゃんのバカーーー‼」
由緒正しい我が家の長女が、誘拐犯と死闘を繰り広げたなんて知れたら大ゴシップだ。父親からも大目玉を食らうだろう。
パトカーのサイレンを背中に聞きながら、妹の手を引っ張って全速力で走った。