銀司は、肉親以外の狼の種族に会った事が無かった。

事情の知れた血族同士の婚姻が不可能ならば、父に倣って人間を妻にするほかないというのが、彼の結論だった。


「『俺達』の存在を知ってるなら、尚の事都合が良い……

どうせ噛み付いたら、無意識のうちに余計なことは考えられなくなるらしいけど、

君なら一般人と違って、いちいち説明する手間が省けるもんな」


「……それ、どうしても私じゃなきゃ駄目なの?」


「まあ、どうしてもって訳でもないかな。

ある意味、テミスへの当て付けみたいなもんだし」


「……どうして、玉野先輩じゃ駄目なの? 

先輩が今まで起こしてきた事件の協力者は、玉野先輩なんでしょう? 

それなのに、どうして……」
 

――彼女を裏切るようなことを、平気で言えるのだろう。