「本日はお集まりいただきありがとうございました」
「あら、そのドレス素敵ね」「あなたも素敵よ」「あなただって」「あなたには敵わないわ・・・」
「あの、専務、シャンペンは如何ですか」「いや、必要ない」「あ、そ、それではブランデーは・・・」
「麻穂さん、大きくなられたわね。おいくつ?」『今年で17になります』「あら!私の子供と同じ歳だわ!あの子も麻穂さんのようにしっかりしてくれればいいんだけれどね・・・」




一通り会話が終われば喧騒から離れるようにバルコニーへ逃げる

ざわざわと吹く風が、広間の人々の声を 離れたバルコニーまで運んできた

髪を結い上げて、肌を露出させた服を着て、香水を吹き付けて。

社交界だかなんだか知らないけれど、私はこういう畏まった場が好きではない

誰かが誰かに取り入ろうと、機嫌を損ねないように、猫撫で声で、歯の浮くような世辞を並べ立てる

その空気が苦手でたまらない

『はぁ〜・・・』

でも、昔は今よりはずっとよかった

お兄ちゃんがいてくれたから

基本的に質問は兄である透の方からする

するとお兄ちゃんは模範例を示してくれる
私はそれに倣って答えるだけでよかった

それなのに最近は表に全然出てこない

私は私のことと兄のこと、2種類も受け答えしなくてはならなくなったのだ

『伯父さんも伯父さんよ!私がこういう場が苦手なのを知っていて、それでも招待を受けるんだから・・・』

「・・・ごめんね、麻穂」


コツ、と足音に続いて 伯父さんの声がした

なんてタイミングの悪さ。

でももう言ってしまったからにはあとには引けない

私はバルコニーの下の庭に向かってぶすくれながら言う

『だってだって、みんな香水キツいし、ピンヒールは歩きにくいし、美味しそうなケーキがたくさんあるのにたくさん食べちゃいけないんだもん。いいことなんてひとつもないよ・・・』

「・・・うん」

『お兄ちゃんは出てきてくれないし、伯父さんはなんかみんなに囲まれてるし、ユキノは働いてるし、私1人ぼっちでいなくちゃいけないんだもん』

なんだか泣きたくなってくる

16にもなってこんなに子供っぽいことばかりでいいのだろうか

愚痴をたくさん言って、わがままばかりで、甘えたの、面倒くさい、私。

伯父さんは私の震える声に気づいただろうか?


「・・・うん」


『伯父さんいつも仕事でなかなか家にいないし、お兄ちゃんは一緒にいてくれないし、ユキノはいつも辛辣だし、寂しいんだもん、ずっと寂しいの』

「・・・ごめんね」


私はようやく庭から視線をあげて、伯父さんと向き合った

目が赤いのはきっと夜が隠してくれるだろう


『ちがうの、謝らせたかったわけじゃないの。少し・・・言ってみたかっただけ』

その言葉には何も返さず 伯父は私に手を差し出した

「Shall we dance.
・・・麻穂、僕と踊ってくれる?」